伏見の現代と未来
京・伏見学叢書第3巻
聖母女学院短期大学伏見学研究会編


「不死身の町」伏見の現状を把握し、新しい時代の姿に肉薄するシリーズ第3冊!


京・伏見学叢書 第1巻
伏見の歴史と文化


京・伏見学叢書 第2巻
伏見の自然と環境



ISBN4-7924-0577-7 (2005.4) A5 判 並製本 250頁 本体2800円
■本書の構成

今の伏見、これからの伏見 澤田壽々太郎
はじめに 第二次大戦後の伏見 曲がり角に立つ伏見・深草 これからの伏見・深草 文化遺産の保存と利用 おわりに

伏見区のまちづくり―伏見区基本計画の策定― 石本幸良
伏見・伏見市・伏見区 伏見区の現状 伏見区のまちづくり 関連する計画 伏見区のまちづくりの展開 区役所の移転と総合庁舎化 これからの伏見区

伏見における人権のあゆみ―明治期から現代まで― 仲島隆夫
はじめに 明治・大正・昭和戦前期 戦後の状況 人権教育の考え方とその推進 おわりに

伏見の町の鉄道史 西城浩志
官設鉄道が「伏見」を通る 京都電気鉄道の開業 奈良鉄道の開業 京都駅の移築と東海道線・奈良線の移設 京阪電気鉄道 奈良電気鉄道(奈良電) 京都市電伏見・稲荷線の廃止 京都市営地下鉄の開業と竹田延伸・近鉄との相互乗り入れ JR奈良線の電化と快速運転 おわりに

親水空間の活性化―ケーススタディ:伏見の人工河川― 西尾信廣
水辺の復権 伏見の人工河川 さまざまな水辺空間―国内と海外の事例― 伏見における親水空間の活性化―ケーススタディ「私案・伏見ヴェネチア構想」に向けて―

『伏見市』の復活をめざして
聖母女学院短期大学 伏見学研究会代表 久米直明
西尾信廣
星宮智光
 今から七五年前、「伏見市」なるまちが存在した。そこに実際暮らした記憶をもっておられる人は数えるばかりであろうし、伏見市がかつて存在したことを知る人も僅かであろう。
 この伏見市が存在したのは昭和四(一九二九)年五月から六(一九三一)年三月までのほんの二年足らずであったから、知っている人が少ないのは当然と言えば当然である。秀吉がつくった伏見城の城下町は、明治時代に市町村制施行によって紀伊郡伏見町となり、さらに京都市との合併を前提に市制を採って誕生したのが伏見市で、短命に終わったのはそのゆえである。伏見町が京都市に吸収され伏見区となることは既定路線であったにもかかわらず、伏見が京都市とは一線を画した独立した存在であることを広く宣言したのが、この伏見市の誕生であった。七五年前の伏見町の住民は、自分たちの、すなわち伏見のアイデンティティをもちつづけることを選択し、それが彼らをして「京都へ行って来るしな」と言いつづけさせてきた原動力にほかならない。
 多くの市町村が政府の奏でる平成の大合併の掛け声のもと合従連衡し、由緒ある地名が消え去り地域社会が変容させられてゆくなか、伏見は再び京都から独立して「伏見市」として歩むべきである、というのが私たちの主張であり願いである。その土地のあるべき姿を守り、環境と福祉を最重点にした二一世紀型のよりよい地域社会を作るためには、行政改革なる美名のもと行政や財政の都合によって地域社会の在り様が決められることは本末顛倒である。地域社会の在り様やそれを支援する行政サービス、インフラの内容、その基盤となる財政のあり方は、その土地の特徴や歩んできた歴史、創り上げられ護られてきた文化と社会のシステムを基礎として、地域住民が主体的に決めるべきものであろう。
 公開講座「伏見学」も「京・伏見学叢書」も、伏見の特徴を明らかにしつつ将来の地域社会が向かうべき方向を指し示すためにこそありたい、と願っている。           (「あとがき」より抜粋)

※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。