東洋地理学史研究 日本篇
海野一隆著




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海野一隆著・東西地図文化交渉史研究


海野一隆著・東洋地理学史研究 大陸篇



ISBN4-7924-0578-5 C3025 (2005.7) B5 判 上製本 650頁 本体18,000円
■本書の構成
第一部  場所に関する知識・観念
「粟散辺土」と「大日本国」―中世日本人の国土観―
ちくらが沖 ―合せて磁石山も―
『おもろさうし』の「かわら」
江戸時代における『二儀略説』の流布
両部神道家源慶安の地球説支持と仏教界の反応
司馬江漢『地球全図略説』の諸版本
〔資料紹介〕江戸時代刊行の東洋系民族図譜の嚆矢
〔資料紹介〕森島中良の『大日本地名便覧』
〔資料紹介〕異本の多い「漂民御覧之記」
〔資料紹介〕『環海異聞』の知られざる善本
〔資料紹介〕岸田吟香とシナ地理研究
〔余論〕外来文化と日本 ―地理学的視点からの展望―
〔余論〕『神代巻口訣』は後世の偽作
〔余論〕『清水物語』の作者

第二部  場所の図形的把握
日本における地図作りの特色
『拾芥抄』古写本における地図 ―天文十七年本を中心として―
祈願・まじないに使われた日本図
豊臣政権の地図調達事業
いわゆる「慶長日本総図」の源流
中井家旧蔵の『日本国中図』
寛永年間における幕府の行政査察および地図調製事業
北条氏長考案の測量器具
江戸時代刊行のアジア諸域地図
江戸時代地球儀の系統分類
宗覚の地球儀とその世界像
藤原貞幹の日本図の原拠
長久保赤水のシナ図およびその反響
間宮林蔵の測量術の師
〔展望〕北米における江戸時代地図の収集状況―ビーンズ・コレクションを中心として―
〔資料紹介〕慶長の砲術家多期真房の測量術
〔資料紹介〕明石市立天文科学館所蔵古地球儀について
〔余論〕『イマゴ・ムンディ』誌半世紀の歩みとわが国
〔余論〕司馬江漢署名入り銅板腐蝕『須弥山之図』の検討

■CONTENTS

Part One Knowledge and Ideas of Places
’Zokusanhendo' (粟散辺土) and ’Dainipponkoku' (大日本国) : The Medieval Japanese View of Their Country
’Chikuragaoki' (ちくらが沖) , Including ’Jishaku-sen' (磁石山)
’Kawara', a Place-name Used in the Omorososhi
The Circulation of the Nigi-Ryakusetsu(Outline of the Heavens and Earth) throughout the Edo Period
The Spherical Earth Theory Proposed by MINAMOTO Yoshiyasu, a Ryobu-Shintoist and the Response from Buddhist Circles
Editions of the Chikyu Zenzu Ryakusetsu(Outline of the Map of the Globe) by SHIBA Kokan
Materials: The First of the Eastern-style Pictures of Peoples in the World Printed during the Edo Period
Materials: MORISHIMA Churyo's Dainihon Chimei Benran(Handbook of Japanese Place-names)
Materials: The Hyomin Goran no Ki(Account of the Shogun's Interview with Castaways) which has many versions
Materials: An Unknown Good Version of the Kankai Ibun(Strange Information from a Trip in All Directions)
Materials: KISHIDA Ginko's Study on the Geography of China
Extra: Foreign Cultures and Japan: From a Geographical Point of View
Extra: The Jindai no Maki Kuketsu(Oral Secrets about the Book of the Age of the Gods) is a Forgery of the Ages.
Extra: The Author of the Kiyomizu Monogatari, 1638


Part Two Diagrammatic Understanding of Place
Some Characteristics of Japanese Cartography
Maps and Plans Illustrating the Early Manuscripts of the Shugaisho: Focusing on the Codex of 1548
Maps of Japan Used in Prayer Rites or as Charms
Government Cartography in Sixteenth Century Japan
Origins of the So-called ’Keicho Map of Japan'
The Nihon Kokuju Zu(Map of Japan) Formerly Kept by the Nakai Family
Administrative Inspections and Cartographical Projects by the Shogunate in the Kan'ei Era
A Surveying Instrument Designed by HOJO Ujinaga(1609-1670)
Regional Maps of Asia Printed in the Edo Period
Classification of Terrestrial Globes Produced in the Edo Period
The Buddhist Priest SOKAKU'S Globe and His Image of the World
The Sources of the Map of Japan by FUJIWARA Sadamoto
Maps of China by NAGAKUBO Sekisui and Their Influence
MAMIYA Rinzo's Surveying Master
Perspective: Some Collections of Japanese Maps of the Edo Period in North America: Mainly about the Beans Collection
Materials: The Surveying Method of TAKI Masafusa, a Gunner of the Keicho Era
Materials: An Old Terrestrial Globe Owned by the Akashi Planetarium
Extra: Half a Century of Image Mundi and Japan
Extra: An Examination of the Shumisen-no-Zu, an Etched Picture on Sheet Copper with SHIBA Kokan's Signature

「文化は孤ならず」の日本地理学史研究
国立国会図書館元司書監・東海大学元教授 石山 洋
 海野先生は、かつて図説による通論とも言うべき『地図の文化史―世界と日本―』(一九九六年〈新装版、二〇〇四年〉)を、更に同じく図説形式の東西両洋の人々が日本列島を古来どのように描いてきたかを展望した『地図に見る日本―倭国・ジパング・大日本―』(一九九九年)を世に問われ、ともに多方面の読者に歓迎された。
 その後、専門的論考をテーマ別論文集にまとめて、まず西洋の地図知識が東洋へ伝播した東漸現象とその逆の西漸現象とを併せた『東西地図文化交渉史研究』(二〇〇三年)を上梓された。次いで著者の専門領域である『東洋地理学史研究、大陸篇』(二〇〇四年)を刊行、中国・朝鮮・インド等に関する諸研究を公けにされた。そして今また、日本地理学史の諸論考三十四篇を収める『東洋地理学史研究、日本篇』が刊行されようとしている。
 新著の序文の中で、先生は「文化は孤ならず」の観点に立ち、『日本地理学史研究』と題しなかったのは「東洋、厳密に言えば漢字文化圏、あっての日本であることを明確にしようとする意図からである」と述べておられる。その精神・態度は既刊の図説にも覗えるが、本書では高次な解析結果が紹介されており、読者を魅了するにちがいない。多くの学徒がさまざまな角度から本書を味読・検討し、著者の研究に触発されることを期待する。
地理学史と数学史研究を結ぶもの
前橋工科大学教授・日本科学史学会委員 小林龍彦
 近年筆者は、海野一隆氏の『東西地図文化交渉史研究』を繙いて、蘭学者本多利明が『渡海新法』の中で吐露していた桂川国瑞の『萬国全図』とは、地理的新知見を含む東西両半球図であって、これが寛政四年までに刊行されていたことを知った。それは筆者にとって経世家の本多が見ていた世界図の一斑が見えた瞬間であった。
 新著『東洋地理学史研究、日本篇』で筆者が最も関心を寄せるものは、宣教師ペドロ・ゴメスの著した“De Sphaera”による小林謙貞の『二儀略説』の流布問題、寛永年間徳川幕府による諸国巡見と国絵図作成事業および北条氏長考案の測量器具に関する論攷群である。読者諸氏に余分な先入見を与えたくはないが、僅かに言えば、北条氏長の論攷では兵法学者・測量家であった松宮俊仍の『分度余術』の劈頭に見える「大円分度」は「準基」「竪円分度」と併せて方位角、傾斜角を測定する器具であり、これの考案者北条氏長がポルトラーノに関する知識を持っていたことを明らかにしている。これでまた、江戸初期測量術史の研究に一石が投じられた。
 敢えて言う、本書は地理学・地図学史家は勿論、科学史・数学史家必見の一冊である、と。
生涯を賭けた研究
神奈川大学名誉教授 中山 茂
 古地図というものは、誰しも関心を持ち、素人でも覗いてみたくなるものだが、この本では、数々の学術的な論考の他に、江戸時代の地図のデータベースとでもいうべき「江戸時代刊行のアジア諸域地図」、「江戸時代地球儀の系統分類」にかなりのページ数を割いてあるので、そうした古地図、古地球儀の見方を助けてくれる。
 とにかく、海野さんが生涯を賭けられた地理学史の仕事が世に出ることは、嬉しいことである。
東洋地理学史のマンダラ
東京大学名誉教授 西川 治
 まことに圧巻、実に壮観、これぞ古今東西の地図・地理学史、六十余年にわたる研鑽、ライフワークは、崑崙の如き威容を呈している。二〇〇三年には『東西地図文化交渉史研究』、その翌年には『東洋地理学史研究、大陸篇』そして、このたびは『東洋地理学史研究、日本篇』と、重厚な三山は書林の玉冠のように輝いている。
 海野先生の地図・地理学史の理念を換言させて頂けるならば、地図は土地・民情地理の要約表現であり、地図なしの戦略は危うく、国土経営は不毛である。「地図なくして地理学はあり得ず」、地理学的世界像を欠く観念的世界観に万民共通の理解は求め難い。
 「東洋、厳密に言えば漢字文化圏、あっての日本」との見識に基づく書は二部編成、第一部「場所に関する知識・観念」は一四篇、第二部「場所の図形的把握」は一九篇の論考からなる。先生の肉眼による地理・地図資料の緻密な考証、天眼による広範な比較考察、慧眼による洞察の綜合的論述を咀嚼するだけでも長い年月を要する。先生の業績は国際学界でも高く評価され、すでに法眼の位に達している。須弥山を仰ぎ、仏眼の遍照に浴しながら、海野地理学史の大成を慶祝申し上げる。