講座 東北の歴史 全六巻
監修 入間田宣夫
  刊行の辞――いくつもの東北へ、開かれた東北へ、
東北芸術工科大学教授・東北大学名誉教授 入間田宣夫   
 中央の高みからする「上からの目線」をもって、東北を一体として捉えて、貧しいとか、遅れているとか、古来の風俗が残されているとか、虐げられる一方だったとか、さまざまな論評をもてあそぶ時代は終わった。これからは、そのような「外側からの目線」にはあらず、地域にくらす人びとの心情に寄り添った「下からの目線」「内側からの目線」をもって、具体的に語らなければならない。
 そのような方向性をもって、一歩を踏み出すならば、東北は一体にはあらず。気候・風土・生活・習俗・言語、さらには産業・経済・社会・政治のありかた、そのほかによって、特徴づけられる「いくつもの東北」が存在していることに気づかざるをえない。
 したがって、これからは、「いくつもの東北」のそれぞれの豊かな存在形態を解明することにあわせて、それぞれの東北が関係しあいながら、同時に外部世界と交流しあいながら、さらには幾多の災害や困難を乗り越えながら、総体としての東北をかたちづくってきた歴史のプロセスを、当事者感覚をもって解明すること。それを目指さなければならない。
 そのためには、県・市・町・村などの限定的な枠組みに捉われているわけにはいかない。同じく、文献の読みを主とする歴史学の領域に閉じこもって、時代の流れを追いかけるタテ系列の編成に捉われているわけにはいかない。すなわち、文献史学に加うるに、考古学・民俗学そのほかの領域をもってするヨコ系列の学際的な編成を試みるしかない。
 このような方向性は、同じく、清文堂出版の刊行になる長谷川成一監修『北方社会史の視座』(全三巻)にも、鮮明にあらわされていた。それによって、津軽海峡を挟んだ北東北・南北海道方面におけるユニークな歴史像が解明されていた。そのために、本書(全六巻)では、南東北方面(宮城・山形・福島)に着目して、その個性豊かな歴史像の解明を目指すことになった。あわせて、一歩を進めて、『北方社会史』との対比において、総体としての東北がかたちづくられてきた歴史のプロセスの解明を展望することになった。
 三・一一の大災害(地震・津波・原発事故)から数えて、一年有半。いまほどに、東北の自覚が求められているときはない。東北の自覚を固め、復興に向けて邁進するうえで、なにがしかの後押しを本書がはたすことができれば、さいわいである。

 


第一巻 
争いと人の移動(第2回配本)
編者 安達宏昭 
東北大学大学院文学研究科准教授/河西晃祐 東北学院大学文学部歴史学科准教授

総論 東北史の枠組を捉え直す……入間田宣夫

■争い
各論考は、軍事制度、城郭、百姓一揆と社会、対決構図の再検討、国土計画と開発などといった様々な視点から「争い」に対してアプローチしている。こうした方法をとることによって、「争い」が「いくつもの東北」に対して持った意味を、新たに広く明らかにできると考える。

征夷と軍制……
近畿大学 鈴木拓也
城郭にみる象徴性 
―伊達氏による虎口の改修をめぐって― ……鹿児島国際大学 太田秀春
百姓一揆の保障システムとその変容 
―南奥羽を中心として― ……千葉県文書館 林進一郎
戊辰戦争期における諸藩対立構図の再検討 
―奥羽列藩同盟をめぐる政治状況を中心に― ……仙台市博物館 栗原伸一郎
戦時期国土計画と東北地方 
―仙塩地方開発を事例に― ……東北大学 安達宏昭

■人の移動
ともすれば「閉じられた地域社会」というイメージを植え付けられてきた「東北」像を再考する。「移動」、それも「他・多地域」からの移動への移動を考えることは、そのような認識を相対化するための試みである。

初期官衙の成立と移民・移動……
仙台市教育委員会 長島榮一
鎌倉御家人の入部と在地住人……
東北学院大学 七海雅人
伊達政宗の転封と奥羽……
仙台市博物館 菅野正道
領主の配置と移動……
宮城学院女子大学 J・F・モリス
移動する商人 
―南東北地方における日野商人・中井源左衛門光煕の店廻りについて― ……滋賀大学 青柳周一
武士の嗜み、武士の威厳 
―近世武士の行列と儀礼に関する一考察― ……宮城教育大学 堀田幸義
相馬興復社による北海道開拓移民 
―牛首別報徳会の設立まで― ……東北学院大学名誉教授 岩本由輝
東北移民史研究の諸課題……
東北学院大学 河西晃祐




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ISBN978-4-7924-0956-2 C3321 (2012.12) A5判 上製本 366頁 本体4600円


第二巻 
都市と村(最終回配本)
編者 平川 新 
宮城学院大学学長・東北大学名誉教授/千葉正樹 尚絅大学総合人間学部教授
■都市
都市は人々が集住し、高度化された諸機能が集中した地域である。時代や地域に即した都市の特徴を描く。

考古学から見た多賀国府
 ……多賀城市教育委員会 千葉孝弥
奥羽の港町
 ……大阪教育大学 綿貫友子
戦前期東北における百貨店の展開過程
 ―岩手・宮城・山形・福島を中心に― ……東北大学学術資源研究公開センター史料館 加藤 諭
戦後地域民主化と文化運動
 ……信州大学 大串潤児

■村
村は自然に周囲され、農業あるいは林業といった第一次産業が主要な生業となった地域である。村の生活や開発のありようなどについて時代的特徴を分析した。

東北の墨書土器と地域社会
 ……国立歴史民俗博物館 三上喜孝
中世のマチとムラ
 ……福島県文化振興財団 飯村 均
村から見た伊達騒動
 ……宮城学院女子大学 平川 新
北上川下流域における村の暮らしと百姓相続
 ―江戸時代の桃生郡橋浦村を中心に― ……常磐大学 平野哲也
南奥羽の村絵図世界
 ……一関市博物館 相馬美貴子
二宮尊徳と中村藩の報徳仕法
 ―村を興し国を興す― ……東北大学名誉教授 大藤 修




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ISBN978-4-7924-0957-9 C3321 (2014.10) A5判 上製本 286頁 本体4600円


第三巻 
境界と自他の認識(第4回配本)
編者 熊谷公男 
東北学院大学文学部教授/柳原敏昭 東北大学大学院文学研究科教授
■境界
古代以来、東北は日本国の北の辺境を構成してきた。そのような認識は、蝦夷地・北海道が日本国に取り込まれてからも消え去ることなく、現在にいたるまで存続しているといってよい。中央、あるいは他地域からみれば東北全体が北の「境界」であるが、東北の側から見れば、南奥が南の「境界」ということになる。さらに東北の内部にも国境(くにざかい)や藩境など、さまざまな「境界」が存在する。このような多様な「境界」に焦点をあてる。

東北における古墳出現期の社会変動と南北境界 ……東北学院大学 辻 秀人
南奥羽国郡制の変遷 ……米沢女子短期大学 吉田 歓
南奥羽における荘園・公領の分布形態 ―置賜と会津― ……一関市博物館長 入間田宣夫
奥羽と関東のはざまにて ―戦国期南奥の地域権力― ……福島県立博物館 高橋 充
「留物」・「御見抜」と産物 ―仙台藩の水産物流通と領主的需要― ……東北歴史博物館 籠橋俊光
藩境に動員される軍事力 ―仙台藩の狩猟と在村鉄砲― ……仙台高等専門学校 鯨井千佐登
南奥羽諸県の成立 ……福島県桑折町文化財審議委員 田島 昇
「駅裏」成立の歴史的背景 ―江戸・明治期における現仙台駅東地区の土地利用を中心に― ……相馬市史調査委執筆委員 佐々木秀之
常磐地方の形成と「東北」 ……相馬市史編さん委員 中武敏彦
藁人形のサイノカミ ……前青森県埋蔵文化財調査センター 大湯卓二

■自己認識と他者のまなざし
東北ほど他者のまなざしにさらされ、さらにはそれを意識した自己認識を形成してきた地域はないのではなかろうか。支配者あるいは中央は、東北を「辺境の後進地」と位置づけ、それを宿命的なものとみなすことさえあった。それに対して東北の側は、その中央とのつながりを強調し、あるいはまた中央への貢献に邁進して「辺境の後進地」という位置づけを少しでも和らげようとすることが多かったように思われるが、もう一方で、安倍―藤原という奥州支配の伝統に連なるという「地域の論理」が東北の支配者の正統観念にみられることも、東北の自己認識の一つの形として注目しておきたい。

節会に参加する蝦夷 ……東北学院大学 熊谷公男
中世日本国周縁部の歴史認識と正統観念 ……東北大学 柳原敏昭
創られた〈東北〉 ―東北凶作と東北研究― ……広島大学 河西英通
東北の人類学・民俗学事始 ―東北人が見た東北― …… 東北大学 山田仁史




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 籠橋俊光著 近世藩領の地域社会と行政

 浪川健治 デビッド・ハウエル 河西英通 編  周辺史から全体史へ

 河西英通・脇野 博 編 北方社会史の視座 第3巻 歴史分野(近代)と生活・生業分野


ISBN978-4-7924-0958-6 C3321 (2013.11) A5判 上製本 354頁 本体4600円


第四巻 交流と環境(第1回配本)
編者 斎藤善之 
東北学院大学経営学部教授/菊池勇夫 宮城学院女子大学学芸学部教授
■海と川と道
東北の地域社会は、古代から近代まで日本列島の地域社会とくに関西や関東との多様な交流のなかで変容を遂げてきた。そうしたなかで移動と交流の手段としての陸と川と海の道が各時代においてどのような様相を見せるのかは、東北社会の地域的特性を明らかにするうえで重要な論点となる。

古代奥羽のみちと政治……
東北大学 永田英明
道々に建つ板碑……
尚絅学院 佐藤正人
仙台藩御穀船の運航管理と統制 
―東北地域における領主的流通機構の特質― ……東北学院大学 斎藤善之
近世の温泉利用とその特性 
―「養生」の勧めと旅行者― ……東北大学 高橋陽一
名望家たちの奥羽横断道路 
―明治初年の山形・宮城両県での地域振興策と県・国家― ……東北大学 佐藤大介
岩越線の起点獲得運動 
―町場から地方都市へ― ……福島大学 徳竹 剛

■災害と環境
災害・環境史にかかわる考古、民俗、近世史、近代史の各分野の論考からなり、洪水、降灰、津波、凶作、雪害、疫病、資源変動など、扱う災害の種類も多岐にわたる。特定の災害だけではなく、さまざまな災害に目を向けていく総合的・全体的な視野を持つことが必要であると考えてのことである。

仙台平野の農耕災害痕跡 
―弥生から近世へ― ……仙台市教育委員会 斎野裕彦
津波と伝承 
―山口弥一郎『津浪と村』をめぐって― ……神奈川大学 川島秀一
救荒食と山野利用 
―仙台藩の場合― ……宮城学院女子大学 菊池勇夫
疾病予防の問題点 
―一八八二年、宮城県の「コレラ騒動」― ……東北芸術工科大学 竹原万雄
一九世紀末〜二〇世紀初・魚油と資源移動を通してみた日本と世界 
―石巻周辺地域における魚油生産の変動を出発点として― ……東京農工大学 高橋美貴
明治四三年水害と東北 
―一九一〇年代の治水問題― ……白石高等学校 勝亦浩之
雪害運動と雪害の認知 
―一九三六年豪雪と雪害対策― ……岩沼市史編纂室 伊藤大介




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 菊池勇夫著 東北から考える近世史

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 斎藤善之・高橋美貴編 近世南三陸の海村社会と海商

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ISBN978-4-7924-0959-3 C3321 (2012.9) A5判 上製本 360頁 本体4600円


第五巻 信仰と芸能(第5回配本)
編者 入間田宣夫 
一関市博物館長・東北大学名誉教授/菊地和博 東北文教大学短期大学部教授
■信仰
単なる伝播論や分布論に止まるような論考は取り上げず、人びとの心意のありかたにまで踏み込んだ論考を積極的に採用する。

東北における寺院の成立と展開 
―寺院遺跡から― ……東北学院大学 佐川正敏
南奥羽の観音像と風景
 ……東北大学 長岡龍作
南奥羽の板碑と霊場
 ……東北大学 佐藤弘夫
仏教唱導と〈口承〉文化 
―奪衣婆をめぐって―  ……弘前大学 山田厳子
オシラサマ信仰の地域的展開
 ……東北大学 滝澤克彦
〈死者の結婚〉を描いた絵馬 ……
岩沼市教育委員会 小田島建己
南奥羽のキリシタン ……
日本女子大学 村井早苗

■祭礼と芸能
「庶民」の目線に立ち、村や町に分け入ってその歩みや実態を丹念に精査し、見落としがちな「路地裏」や「一隅底辺」を照らして暮らしの本質の部分を掬い取りながら考察を深める。

民俗芸能からみた南奥羽 ―東北地方のシシ踊りの歴史と現状―  ……
東北文教大学 菊地和博
城下町仙台の祭礼と芸能 ……
仙台市博物館 水野沙織
「狂歌」に結実する地域の文化
 ……東北大学 高橋章則
南奥羽の博奕と芸能 ―最上川流域を中心として―  ……米沢女子短期大学 小林文雄
奥羽の剣術 ―幕末維新期における仙台藩陪臣の剣術を中心に―  ……
米沢女子短期大学 布施賢治
イベントと民俗芸能 
……盛岡大学 大石泰夫




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ISBN978-4-7924-0960-9 C3321 (2014.2) A5判 上製本 414頁 本体5600円


第六巻 生と死(第3回配本)
編者 鈴木岩弓 
東北大学大学院文学研究科教授/田中則和 仙台市富沢遺跡保存館(地底の森ミュージアム)前館長
■生
「生」で括られた本巻の前半部には、民俗学と近世史から各二編、近現代から一編の合計五編の論考が収録されている。「うまれる」「いきる」「おう」「なま」「はえる」などと訓読みされる「生」であるが、その意味を「死」の語を意識しつつ人の一生の場面に則して整理するなら、数多く見られる訓読みのうちでも最初の二つ、「うまれる」「いきる」に重点が集約されよう。

子どもの誕生・命の選択 ……
宮城学院女子大学 鈴木由利子
裁縫と衣の民俗 
―福島県の女性とくらし― ……福島県立博物館 榎 陽介
東北六県における女性の政治参画……
東北学院大学 佐藤和賀子
大名の学問活動と「明君」意識 
―仙台藩を事例に― ……東北大学 蝦名裕一
近世農民家族のなかの高齢者 
―出羽国村山郡を事例として― ……東北学院大学 柳谷慶子

■死
「死の受容の在り方」については、外来からの衝撃を画期とする文化的な流れがみられる。このような文化的な波を北方に押し広げる拠点的地域となることの多かったのが南東北であり、北東北との相対的な差異を産み出している。東北の歴史の中での「死」の位相を明らかにする。

東北の古墳と葬送……
東北大学 藤沢 敦
率都婆 
―中世人の死生救済祈願― ……地底の森ミュージアム前館長 田中則和
大名の死をめぐる頭髪規制の展開 
―月代に関する町役人の願書から― ……東北大学 中川 学
クリスチャンの「祖先祭祀」……待井扶美子
東北地方の「骨葬」習俗……
東北大学 鈴木岩弓
誰が戦死者を祀るのか 
―戊辰戦争・西南戦争・対外戦争(戦闘)の戦死者供養と祭祀― ……仙台市歴史民俗資料館 佐藤雅也
「死」を表す言葉と発想の地域差……
和歌山大学 澤村美幸


ISBN978-4-7924-0961-6 C3321 (2013.9) A5判 上製本 326頁 本体4600円
  『講座 東北の歴史』推薦のことば
東京都立大学名誉教授 峰岸純夫   
 3・11東日本大震災という巨大災害(福島第二原発事故という放射能災害を含む)からの復興という課題を背負った東北地域が、その歴史を総体として把握したうえで、その再出発を進めようという意図も含めて編纂された「東北の歴史」の決定版といえるものが本書である。今日に至るまで豊田武編『東北の歴史』、大石直正・小林清治編『中世奥羽の世界』などの歴史書が刊行されているが、この度の企画では、歴史のみならず、考古・民俗・宗教・美術などの各分野の成果をもふんだんに取り入れて学際的な成果として織りなされて見事に結実していると思う。その内容は、「争いと人の移動」、「都市と村」、「境界と自他の認識」、「交流と環境」、「信仰と芸能」、「生と死」というテーマ別の六巻に分けられている。
 そして、東北在住ないし出身の研究者が中心となって意欲的に分担執筆している。そこには、地域にねざして、地域から歴史を組み立てるという方針が貫かれており、教科書的な中央中心史観の克服と相対化の思考が息づいている。
 私自身の反省を述べると、東国史研究者を自称しながらやってきているが、これは東北史を除外して関東史をもって東国史を僭称していたことである。東北史を含めた東国史が成立するか否か今後の課題であるが、相互の交流は深いものの東北を関東の従属地域とみる考え方を脱却することが必要と思う。そのことが、東京電力による福島原発の設定というような発想の根源にかかわるようにも思われる。いまや、日本列島を中央政府の一元的に統括する領域としてとらえるのではなくて、ある程度の独立性を持った各地域の複合体として把握する発想の転換をしなければならない段階となっていると思う。
 本書のなかで、国・県史を越えて東北というマクロな地域をとらえるということが強調されているが、このような視角はたいへん重要だと思う。日本列島を構成する北海道・東北・関東・甲信越・北陸・中部・近畿・中四国・九州の九区分(ただし、甲信越が地域として成立するか否かは不明)のそれぞれの地域の歴史が、今後に編さんされるとすれば、本書は都道府県史を越えた日本列島各地域史編さんの先駆けをなすものと考えられる。以上の点で本書の刊行を喜ぶとともに、東北地域の方々はもとより他地域の多くの方々にもお勧めする次第である。

 
  『講座 東北の歴史』によせて 当事者と非当事者の間を繋ぐ 
関西大学大阪都市遺産研究センター長 藪田 貫   
 最近、ひとつの古本を手に入れた。『大阪辨』という雑誌である。編者は牧村史陽、表紙生田花朝、題字岸本水府、カット前田藤四郎という生粋の大阪人の名前が並ぶ雑誌である。発行所は清文堂書店で、住所大阪市阿倍野区松崎町とある。発行年は昭和二十三年五月一日。私が生まれた歳に出た古い雑誌である。「有名といわず無名といわず、ともかくも大阪の文化人をこれだけ動員出来たことは、かつての大阪発行の書籍に未だ見られなかった壮観である」と史陽は自賛している。
 そんな大阪色の強い老舗出版社から、この度、『講座 東北の歴史』全六巻が出る。そればかりか第一巻の総論のなかで編者入間田は、「清文堂側からの申し入れと意欲にあふれた編別構成の原案の提示がなければ、本書の企画は、発足することさえ叶わなかった」と述べ、出版社サイドの意思を強調している。
 こうして「中世奥羽の地域区分」にこだわり、「南/北から東/西へ」というキーワードによって、「横ならびの編別構成」をとった『講座 東北の歴史』が生まれた。全六巻、七十九人の執筆者を動員した、〈オール東北〉ともいうべき壮観をみせる叢書が、三・一一の一年を期して出版されるのである。
 一年後の三・一一には、日本各地の新聞が大震災・大津波・原発事故を一斉に取り上げたが、大小、切り抜きたい記事が並んでいた。そのひとつ『毎日新聞』の連載「再生への提言」のなかで山形県出身の女優・演出家の渡辺えりは、「今回の震災で、東京に暮らす大多数が東北をよく知らず、根底にある差別意識に気がつかないまま暮らしているのではないだろうか、と改めて感じた」と書いている。類するコメントは少なくない。「東京」は「大阪」でも「名古屋」でも「鳥取」でも、三・一一の当事者でないという点で変わりはない。
 大阪に住み一・一七の当事者のひとりであったわたしは、三・一一では非当事者になった。一・一七で非当事者であった東北の人々は、三・一一で当事者となった。その当事者たちが、被災の現場のなかで作り上げた作品を、非当事者である清文堂が出版し、非当事者であるわたしが読む。両者の間を架橋するのは、「縁の下で東京をつくり続けてきた東北という地を、もっとよく知ってほしい」(渡辺えり)、「もっとよく知りたい」というそれぞれの想いである。

 
  新たな東北史像の構築に期待する
弘前大学附属図書館長 人文学部教授 長谷川成一   
 このたび、東北中世史の泰斗である入間田宣夫東北大学名誉教授・東北芸術工科大学教授が監修をつとめる、『講座 東北の歴史』全六巻が、清文堂出版から発刊されることになった。近世北方史や弘前藩を中心とした藩政史の研究を続けてきた私にとっても、まことに欣快に堪えない。各巻の編者は各学問分野における重鎮の研究者が担当し、執筆者は考古学・日本史学・宗教学・民俗学・芸能史などの第一線で活躍している方々を揃えて、最新の研究成果を披露する内容となっている。
 本講座の構成は、各巻にテーマを設定して、それに沿った論考がおおむね編年順に並べられている。なかには二〇一一年三月十一日の東日本大震災を意識したテーマも取り上げられており、災害史や環境史にも目配りした論考のほかに、大災害が我々に直面させた生と死の問題についても課題が設定されている。
 監修者の入間田氏は、総論の中で中世奥羽の世界が第一地帯から第四地帯へと地域区分されることを強調し、それが東北地方の生産・生業のあり方や生活形態を踏まえた本来的な地域構造を反映したものであって、近代に入ってからの行政区分は本来の姿と相容れないという。その上で、戦後の東北史研究を回顧し、「いくつかの東北へ」から双方向に「開かれた東北へ」という研究の歩みを明示し、「南/北から東/西へ」をキーワードとして東北の歴史を括ることを提唱する。
 前述のように本講座では、近代の東北六県による地域区分の枠組みを乗り越えて、中世における本来的な地域区分にまで立ち返ることによって新たな広やかな歴史像を模索することを目指すとしている。加えて、監修者をはじめ編者・執筆者が、地域にくらす生活者の目線をもって、全体的かつ通時的な地域の在り方に真正面から向き合うことを、ともに追求しようとするその姿勢は、新たな東北史像を構築せんとする意欲に満ちあふれていよう。その意味においても、本講座は、永く東北史の研究を志す若い研究者の道しるべになるに違いない。

 
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。