■久遠の祈り | |||||
―紀伊国神々の考古学A― | |||||
菅原正明著 | |||||
金剛峯寺、根来寺、道成寺など、卓越した遺跡がひしめきあう和歌山県。第二巻『久遠の祈り』では、中世根来寺と技術伝播、和歌浦の妹背山、湯浅町の深専寺をとり上げ、史学と考古学を車の両輪のごとく駆使して研究を掘り下げていく。その成果は、和歌山県一県にとどまらず、日本全体を牽引、導引するものである。 紀伊国神々の考古学 全三巻 祈りの造形―紀伊国神々の考古学@― 祈りの姿―紀伊国神々の考古学B― |
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ISBN4-7924-0507-6 (2002.10) A5 判 上製本 344頁 本体5800円 | |||||
■本書の構成 T石に刻まれた祈りの形―根来寺の中世石造物群― 根来寺山内の中世石造物群 西山城堀出土の石造物 石に刻まれた祈り 紀ノ川中流域の一石五輪塔造立の動向 U真言の響き―天野の光明真言板碑― 五輪卒塔婆 光明真言板碑 三界万霊板碑 その他の石造仏 V経石に込められた夢―妹背山多宝塔の建立― 妹背山 経石埋納 題目碑の造立 養珠院と日蓮宗 妹背山多宝塔の建立と養珠寺の造営 景勝和歌浦 紀州徳川家の歴史を映す妹背山 W湯浅町深専寺本堂の鯱 深専寺 本堂の甍 本堂の鯱 特論1中世の根来寺を支えた商人・職人―根来寺の寺院経済― 中世の根来寺 根来寺を支えた商人と工人 宗教都市の商人と職人 根来寺の寺院経済 |
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史学と考古学を駆使した成果 | |||||
奈良大学教授 水野正好 | |||||
この書『久遠の祈り』は菅原さんの『紀伊国神々の考古学』の第二巻にあたる。大学を出られて奈良国立文化財研究所に勤め、早く篤実、実直、真摯な研究者と評価されていた菅原さんは、奈良国立文化財研究所が各県に文化財行政を担当する一線級の人材を配置する動きの中で、和歌山県教育委員会に赴任された。緊急事態にあった文化財行政に追い立てられ没頭する余り研究の時問をもてず考古学をひらく論文が書けない担当者が生まれたり、遂にあくまでも研究に没頭し行政を十分に果たしてない担当者がうまれたり…。そうした中で、私は行政に携わる我々は「戦う学徒」として誇りをもち行政でも第一線にたち、学問でも第一線にたつべきだと説いてきた。 和歌山県に勤められた菅原さんは篤実な性格そのもの、行政と学問の両立をはかりつつ輝かしき和歌山県文化財行政のよき担い手、数多くの調査や普及啓蒙の仕事を担当しつつ、県下の考古学的素材―わけても、古代・中世の諸遺跡の研究を始められた。和歌山県はそうした分野では金剛峯寺・根来寺・道成寺など卓越した遺跡がひしめきあう地であり、寺観、寺勢、寺史、寺僧と坊、荘園、商業、交通、どれ一つをとっても他県に比べ多くのすばらしい史料・資料を具えた地である。まさに菅原さんに相応しい好適の研究地盤、環境が用意されていたといえるのである。 高野山金剛峯寺では大門の解体修理や奥院の整備に伴う発掘調査、根来寺では史跡指定へ向けての一連の発掘調査、坊舎や道路の調査が実施され、従前、史料・記録を中心に展開してきた寺院研究に新たな考古学的手法に伴う遺跡・遺物からする研究が展開し、新しい視点、研究分野を開拓するようになった。史学と考古学が両輪となって急速に面目を一新する事態がひらけ始めたのである。そうした新展開に深く係わり合い新しい展開を牽引した人こそ菅原さんであった。史料を操作し考古学資料に通暁し、史学と考古学を一身で両輪のように駆使できる見事な才を具えた菅原さんならではの諸論考が次々と誕生、私は驚きの目でその成果を身につけさせていただいた。一般の考古学者にはない資質は中世の表面に輝く金剛峯寺や根来寺への照射にとどまらず、支えた寺僧や檀越・衆生の墓塔や墓標、多数作善の動きの中で書写された経石の埋納、寺々に関わりあった大工や諸職・職人などにまで及び、見事に篤実な成果を示されるに至った。その成果は、和歌山一県内の研究にとどまるものではなく、その視座、研究の方法は日本全体を牽引、導引するものである。中世考古学、歴史考古学という名の浅薄な研究とは自ずと一線を画するすばらしい業績がこのような形で一冊にまとめられる。学界への稗益はまことに大きい。同学として学恩に感謝したいと思う。 菅原さんはいま和歌山県立博物館に勤務されている。展示など研究の成果を公開する形で「戦う学者」を主張することができる筈。いま、根来寺は激変の時代を迎えている。検討されて来た史跡指定はいまだしの状況、県下の各地では遺跡の調査・保護が以前にはなかった形で難渋している。調査研究にとどまることなく、根来寺を始め貴重な文化財の保護・保存に、いま以上、より一層積極的にとりくんで下さることを期待しつつ本書の刊行を喜びたい。 |
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※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。 |