近世都市住民の研究
乾 宏巳著
近世都市社会の分析方法は多様であるが、本書で取り上げられた人の移動とライフサイクル、民衆運動、町共同体は、いずれも近世都市社会論の不可欠の構成要素であり、これらを欠いた近世都市社会論はありえないといってよい。近世都市を考える上で必読の書といってよいだろう。



著者の関連書籍
乾 宏巳著・近世大坂の家・町・住民


乾 宏巳著・水戸藩天保改革と豪農
ISBN4-7924-0546-7 (2003.10) A5 判 上製本 426頁 本体8800円
■本書の構成
はじめに
第T部 近世大坂における人口動態
第一章 近世都市大坂の人口について
第二章 近世大坂の展開と都市周縁部―都市打ちこわしと関連して
第三章 近世大坂の町内人口動態と三郷外周辺地域
第四章 大坂菊屋町の結婚・出産・死亡・相続
第U部 近世都市の民衆運動
第五章 初期町共同体の歴史的性格―大坂三津寺町町方騒動の分析
第六章 江戸・大坂の都市騒擾と住民構造
第七章 近世後期の町人訴願運動の構造―文政四年堀江郷地代金上納一件をめぐって
第八章 大塩の乱における農民的基盤
第九章 北摂池田における住民運動と村政改革
第V部 近世都市の町共同体
第十章 大坂の町共同体―排他的地域主義をめぐって
第十一章 江戸の町共同体―町礼をめぐって
第十二章 北摂池田の町共同体
おわりにあたって
乾宏巳著『近世都市住民の研究』を推薦する
大阪大学大学院文学研究科教授 村田路人
 乾宏巳先生といえば、一九七〇年代終わりから、八〇年代半ばにかけての大阪教育大学天王寺校舎新館S1教室での情景を思い出す。ここは、長らく大阪歴史学会近世史部会の月例会の会場として使われていた教室で、同大学に勤務されていた乾先生は、この時期、ほぼ毎回月例会に顔を出されていた。どのようなテーマの報告に対しても、的確な質問・意見を出され、報告者のみならず出席者の我々も、大いに教えられたものである。
 このほど、その乾先生が、『近世都市住民の研究』を清文堂出版から出された。本書を一読して受けた印象は、あのころの近世史部会での先生の発言から受けた印象と共通するものである。それは、ひとことでいえば、分析対象である事柄の基礎的な部分を重視するという姿勢である。
 先生は昨年(二〇〇二年)、やはり清文堂出版から『近世大坂の家・町・住民』を刊行されている。この書は、近世大坂の町人社会を、社会の基礎単位である家および町のあり方と、町を超えた住民結合のあり方に目を据えて分析したものである。すなわち、都市社会の特質を、その基礎的な部分を徹底的に分析することによって解明しようとしたものである。また、家や町や住民結合のあり方を静態的にとらえず、民衆運動史的な観点からそれらを問題にしていることも、乾都市論の特徴といってよいだろう。
 今回出された『近世都市住民の研究』は、前著の続編、あるいは姉妹編というべきもので、ご自身も、「前著と合わせて1冊」(「はじめに」)と述べられているように、両著の方法は一貫している。本書は、第T部「近世大坂における人口動態」、第U部「近世都市の民衆運動」、第V部「近世都市の町共同体」の三部からなる。第T部では、人の移動の実態が打ちこわしとの関連で分析されるともに、菊屋町住民の結婚・出産・死亡・相続の実態が明らかにされている。第U部は、住民構造との関係に留意しつつ、都市民のさまざまな運動を論じたものである。第V部では、大坂・江戸・摂津池田のそれぞれにおける町共同体の性格が解明されている。
 近世都市社会の分析方法はもとより多様であるが、本書で取り上げられた、人の移動とライフサイクル、民衆運動、町共同体は、いずれも近世都市社会論の不可欠の構成要素であり、これらを欠いた近世都市社会論はありえないといってよい。近世都市を考える上で、必読の書といってよいだろう。
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。