水戸藩天保改革と豪農
乾 宏巳著


本書の構成

   はじめに
      第一部 水戸藩天保改革
   第一章 水戸藩の天保改革
はじめに―水戸藩天保改革年表/第1期 文政十二年〜天保六年/第2期 天保七年〜天保十年/第3期 天保十年〜弘化元年/おわりに―水戸藩天保改革の性格
   第二章 水戸藩天保改革の特質―長州藩との対比を通して―
はじめに―課題における視点/長州藩と水戸藩/水戸藩天保改革の前提/水戸藩の天保改革/おわりに―天保改革の挫折/付 幕末期水戸藩の江戸国産会所について
   第三章 『新論』と藩政改革
はじめに―後期水戸学の位置づけについて/『新論』の成立/『新論』の構成/『新論下』と水戸藩天保改革/おわりに―内憂外患への実践的政治論

     第二部 豪農と藩政改革
   第四章 関東農村の荒廃と豪農の成立
はじめに―関東農村の荒廃現象と原因について/水戸藩潮来領の農業生産状況―荒廃から復興へ/須田家の農業経営/水戸藩天保検地と須田家の土地所有/おわりに―幕末における須田家の農業経営
   第五章 豪農思想の展開―藩政改革への対応をめぐって―
はじめに―幕末期における豪農の政治的意識について/須田家の系譜/化政期における豪農の文化的関心/藩政改革に対する豪農思想/改革派連合の成立/おわりに―尊攘派への展望
   第六章 豪農と水戸藩党争―改革派連合の展開―
はじめに―維新変革期における豪農層の位置づけについて/弘化元年の南上強訴/天保改革と水戸藩党争/天保検地と豪農/改革派連合の展開/おわりに―維新期水戸藩政不振の主因について
   おわりにあたって



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ISBN4-7924-0618-8 C3021 (2006.12) A5 判 上製本 210頁 本体4800円
幕末水戸藩の改革と豪農の的確な分析と尊王攘夷運動の解明
大阪樟蔭女子大学教授・茨城大学名誉教授  長谷川伸三
 乾宏巳氏は近世大坂の町人社会や豪農経営の研究で大きな成果をあげられた。近世職人の研究もある。しかし、氏の初期の研究対象は、幕末水戸藩の政治・経済・社会の動向であった。
 水戸藩は、長州藩・薩摩藩・土佐藩や越前藩とともに、幕末・維新変革の歴史を明らかにする上で、欠かせない対象である。後期水戸学から発した尊王攘夷思想が各地の武士や草莽を維新変革運動にかりたてた。しかし、水戸藩の尊王攘夷派は桜田門外の変・坂下門外の変や筑波山挙兵で倒幕運動の先鞭をつけながら、果てしない藩内抗争やむなしい西上を行って、維新を待たずに壊滅してしまった。この幕末水戸藩の歴史過程は、複雑でわかりにくい。
 従来の研究では、改革派から天狗党が生まれ、保守派から諸生派が生まれ、前者が革新派、後者が反動派と割り切る見解や、水戸藩の農村は生産力が低く、社会も後進的で、藩権力を財政的にも軍事的にも強化できなかったという見解が多かった。最近の研究では、水戸藩領では、農村荒廃を克服し、農業生産力や商品生産の発展がみられた地域もあり、徳川斉昭の藩主擁立以後、藤田東湖ら改革派が台頭し、天保期藩政改革を推進する。その後改革派が豪農層を取りこみ、保守派とのきびしい抗争を続けながら、尊王攘夷運動を展開することなども明らかにされている。 
 乾氏は、こうした水戸藩の動向を、農村の変化や豪農の性格からはじめ、藩政改革の成否、改革派と保守派との抗争を実証的に分析し、藩内対立が農村のすみずみまで浸透し、藩内抗争が拡大・深化したことを明らかにした。さらに大きな観点から、水戸藩の動向を幕末・維新史のなかに位置づけている。後期水戸学と藩政改革との関係も説かれている。
 乾氏の研究が一書にまとめられたことを喜びたい。本書を幕末・維新史に関心のある方々へおすすめする次第である。
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。