■飛鳥時代の政治と王権 | |||||
前田晴人著 | |||||
著者略歴 1949年 大阪市生まれ 1977年 神戸大学大学院文学研究科修士課程修了 現 在 大阪府立堺工業高等学校教諭 |
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ISBN4-7924-0558-0 (2005.1) A5 判 上製本 438頁 本体10,000円 | |||||
■本書の構成 緒 言 第T部 憲法十七条と飛鳥仏教 第一章 憲法十七条と孝徳朝新政 第二章 憲法十七条と天皇号 第三章 飛鳥仏教の特質と王権 第U部 蘇我氏と王権 第一章 蘇我蝦夷・入鹿の「双墓」について 第二章 大臣蘇我蝦夷の権力とその実体 第三章 七世紀の宮室と大臣の庁 第四章 『古事記』『日本書紀』と古代天皇の都 第V部 氏族と人物の伝承 第一章 難波出土の「王母前」木簡をめぐって 第二章 古代の行幸についての断章 第三章 中臣鎌足没伝の検討 第四章 膳氏の本拠地と始祖伝承 第五章 『古屋家家譜』を通じてみた紀伊国の屯倉と大伴氏 第W部 呪術・祭儀・神話 第一章 古代の衢と言霊信仰 第二章 古代出雲の衢と国造の境界祭祀 第三章 サルタヒコ大神の伝承 第四章 古代の「境界都市」とその神話 初出一覧 あとがき 索引 著者の関連書籍 前田晴人著 古代女王制と天皇の起源 前田晴人著 古代王権と難波・河内の豪族 前田晴人著 女王卑弥呼の国家と伝承 大阪経済法科大学 河内学研究会 編 「河内学」の世界 |
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徹底した「懐疑と批判」の姿勢に学ぶ | |||||
学習院大学・日本大学講師 遠山美都男 |
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歴史研究が、過去の事件や人物などについて記した史料と、それについて考究した先行文献に対する徹底的な「懐疑と批判」を不可欠とする学問であることは言うまでもない。『飛鳥時代の政治と王権』の著者、前田晴人氏の「懐疑と批判」の深さと鋭さは定評のあるところであって、しかも、高等学校教諭としての多忙の間を縫って多くの研究や著作を公にされていることは驚嘆と敬服に値する。 本書は、「憲法十七条と飛鳥仏教」「蘇我氏と王権」「氏族と人物の伝承」「呪術・祭儀・神話」の四部より構成され、前田氏持ち前の「懐疑と批判」から出発した論究の成果が収められている。本書のタイトルにもなっている飛鳥時代の研究は、文献史学の分野では文字史料の量的不足という、御題目のように唱えられてきた決定的な限界があり、現在必ずしも活況を呈しているとは言いがたい。そのような状況のなかにあって、前田氏の徹底した「懐疑と批判」をふまえた問題提起は実に新鮮であり、研究の閉塞状況を打破するにはどのような視点と方法が有効なのかを私たちに具体的に教えてくれる。 たとえば、本書でもとりあげられている憲法十七条については、聖徳太子(厩戸皇子)の真作か否かをめぐって論争が積み重ねられてきた。昨今でも太子が実在したか否かという議論に関わって、憲法の真贋が盛んに問題にされている。だが、前田氏は憲法に関してそのような問題ばかりに拘ってきたこれまでの研究や議論に深甚な「懐疑と批判」の目を向け、憲法に書かれている個々の事態が実際にどのような歴史的状況のもとで発生しうるかと考察を深められた。その結果、とりわけ仏教興隆を説いた有名な第二条の原型は太子の時代よりも後の大化改新期でなければ成立しえないのではないかと問題を提起されている。 憲法が太子の作か否かという設問に「呪縛」されている限り研究の進展は望めないのであって、憲法だけに限らず古代史の諸問題にこのような「呪縛」がいかに多く存在するかを知る上でも、本書は有益な指針を提供してくれるに相違ない。一人でも多くの方々に、とくに古代史研究を志す学徒に熟読・玩味してもらいたい一冊である。 |
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前田晴人著『飛鳥時代の政治と王権』を推す | |||||
成城大学・中央大学・早稲田大学・慶応義塾大学講師 加藤謙吉 |
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前田晴人氏の論文「古代王権と衢」が『続日本紀研究』二〇三号に掲載されたのは、もう四半世紀も前のことである。当時、私は就職して間もない時期で、仕事に忙殺され、自分の研究を顧みる余裕などほとんどなかった。せめて他の人の論文ぐらいは読もうと思い、郵送されてきた雑誌の巻頭論文に目を通したのであるが、私と同年代と思しき執筆者の斬新かつ説得力に富む論説に次第に圧倒され、知らず知らず居住まいを正して、熟読していた。読了後、前田氏の論旨への強い共感とともに、自分が研究の第一線から取り残されてしまったような焦燥感にとらわれたことを、今でもはっきりと覚えている。 爾来、今日に至るまで、前田氏の論文から常に鮮烈なインパクトを受けてきた。氏の学説の最大の魅力は、既成の歴史観にとらわれない発想の豊かさと、それを独自の手法で体系的にまとめあげる卓越した構想力にあると私は考えている。あるいはその魅力は、「若さ」という言葉に置き換えることができるかもしれない。いたずらに老成せず、自由でしなやかな思考に立って、歴史を洞察しようとする一貫した学の姿勢、それが「若さ」である。前田氏も私も年齢を重ね、そろそろ初老の域に達しつつあるが、前田氏の学風は今もって大胆かつフレキシブルで、微塵も「老い」を感じさせない。 前田氏の第三論文集である本書は、七世紀の政治と王権を主たる対象として、多角的な論点からこの時代の実相に迫ろうとした野心作であり、氏がこれまで培ってきた学問的魅力が遺憾なく発揮された好著である。テーマ別に四部構成より成るが、個々の論考において前田氏が提示された見解は、いずれも当該時代の政治史・宗教史の本質と関わる重要な問題ばかりで、その鋭く的確な分析は、今後、古代史を専攻する者が参考とすべき大きな道しるべとなろう。 |
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※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。 |