■日本林業技術史の研究 | |||||
脇野 博著 |
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第五回林業経済学会賞(学術賞)受賞 本書の構成 序 章 林業技術史研究の課題と方法 第一編 近世林業における技術と労働 第一章 近世初期畿内地域の材木生産 第二章 木曾林業における材木生産の成立 第三章 木曾林業における伐出技術 第四章 江戸周辺における御用材伐出 第五章 江戸周辺における農民材伐出 第六章 近世の林政と育林 第二編 林業技術の近代化過程 第一章 森林資源開発と津軽森林鉄道計画 第二章 津軽森林鉄道導入と在来伐出技術 第三章 木曾森林鉄道導入と在来伐出技術 第四章 近代化における在来伐出技術の変容―木曾・津軽・秋田森林鉄道を中心に― 終 章 あとがき 索 引 著者の関連書籍 河西英通・脇野 博 編 北方社会史の視座 第3巻 歴史分野(近代)と生活・生業分野 |
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ISBN4-7924-0606-4 C3021 (2006.6) A5 判 上製本 348頁 本体8500円 | |||||
林業史・技術史を学ぶ人々の研究のいしずえ | |||||
弘前大学人文学部・大学院地域社会研究科教授 長谷川成一 | |||||
私が大学院生のころ、老大家の先生から林業史と鉱業史は難しいからね、と言われたことがある。理由は、この両分野は他と違い特殊なテクニカルタームが多くて、それに習熟するだけでも大変だからということであった。確かに大学の講義で鉱山史をテーマに取り上げると聴講学生が急減するので、現在でも右の先生のお言葉は生きているようだ。また当該分野の研究者も決して多いわけではない。 右のような研究状況のなかで、このたび、脇野博氏が、『日本林業技術史の研究』を上梓した。学術専門書なので、読みやすくなじみやすい内容でないのは当然だが、近世から近代に至る伐出技術を中心にした林業技術のあり方を、国家と技術という高い問題意識を保持して検討した労作である。具体的には、近世国家のなかで林業技術はどのように発展・伝播し、近代国家ではそれがいかように位置づけられたのかを明確にしており、木曾・江戸・秋田・津軽の事例に基づいた論述は、地域的な広がりを持ち説得力に溢れている。 我々はすでに、所三男氏の大著『近世林業史の研究』(吉川弘文館 一九八〇年)を得ている。それから約四半世紀を経て、このたび脇野氏によって近世から近代に至る林業史の新たな成果を共有することができた。本書は、これから林業史のみならず広く技術史を学ぶ若い人々の研究のいしずえになることであろう。 |
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森林と社会を結ぶ職人の技と組織を解明―在来技術の近代化に新たな視座 |
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筑波大学大学院生命環境科学研究科助教授 加藤衛拡 | |||||
高度経済成長期まで、わが国の建築・土木資材や燃料は大きな部分を林産物に依存しており、林産物を生産する林業は基幹産業の一つであった。 17世紀初頭、近世都市の建設や新田開発・鉱山開発が進み、それらに関わる資材・燃料供給のために大規模な林産物生産が始まった。森林は未だ原生林そのものであり、そこから太く、長く、極めて重い材木を伐採・加工し、搬出・運送するには、高度な技術を持つ職人とその組織が必要であった。本書の前半ではこれが解明される。 近代に入り資本主義経済が成立すると、新たな社会を支える資材としてより大量の材木生産が要求される。近世以来の水運や雪橇に頼る搬出・運送技術には、種々の限界が存在し、克服する手段として森林鉄道が導入された。本書の後半では、三大美林と呼ばれる木曾・津軽・秋田地域を例に、その導入にともなう在来技術体系の継承と変容が、労働力の存在形態との関係の中で追究される。 林業など在来産業の技術は手労働を基礎としており、近世から近代を通じて根本的な転換はなかったが、しかし確実に変化していった。こうした在来産業技術の近代化を考察する上で、近世を起点に近代を見据えた本書は、極めて重要な視座を与えてくれる。 |
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※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。 |