■活用と活用形の通時的研究 | |||||
山内洋一郎著 | |||||
日本語文法の通時的変遷で重要なものは、活用体系の変化であり、それは活用と活用形の二面で把握される。活用と活用形に存する中の、特に動詞と助動詞を中心として研究しようとするのが本書である。二部構成の内容は、T活用の通時的研究、U連体形終止法の研究、において院政鎌倉時代の言語を中心対象として、時には上代へ溯り、又室町時代にも触れ、散文のみならず、韻文・辞書にも目配りする周到さで、現代につづく話し言葉の歴史を考究する。 |
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ISBN4-7924-1377-X | (2003.7) | A5 判 | 上製本 | 300頁 | 本体8000円 |
●本書の構成 序章 古代の動詞活用と文終止法 T 活用の通時的研究 第一章 二段活用動詞の一段化 第一節 院政鎌倉時代におけ二段活用の一段化・第二節 擬一段化及びエル型動詞・第三節 広本節用集の二段活用の一段化 第二章 下一段動詞「蹴る」 第三章 ナ行変格動詞「いぬ」「死ぬ」 U 連体形終止法の研究 第一章 奈良時代の連体形終止 第二章 平安時代の連体形終止 第三章 院政期の連体形終止 第四章 連体形終止の関連語法 第一節 終助詞「は」の成立・第二節 助動詞「うず」・第三節 終止・連体形と助動詞「ベシ・マジ」-現代語「マイ」の接続不整の源- 第五章 連体形終止法の逆行現象の否定-ナ変動詞の五段化はなかった- 著者の関連書籍 山内洋一郎著 ことばの歴史〈語史研究〉 |
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山内洋一郎氏『活用と活用形の通時的研究』を読む | |||||
京都教育大学名誉教授 大塚光信 | |||||
「言語現象の起こり方を見ると、先駆的な例がぽつりぽつりとまず現れ、かなり経ってから大きい動きとなることが多い。その露頭を見いだすのが大事であり、その確認の慎重さも必要である。」と、この書の中で山内洋一郎氏は説く。 かつて、打消の助動詞ナイの早い例として提示された、 ○ 勾、呉字ハ下ニ注アレトモ、勾ノ義ハ貞実ニシナイトシタソ(板本史記抄、九13ウ) は、善本である清家文庫本の本文「貞実ニモナイソ」(一〇8ウ)によって今では例証としての力を失った。 「死ヌ」をそのままシヌと読み、ナ変動詞の四段化現象の早い例とする、 ○ 命ハ限アリ、思ニハ死ヌ習ナレハヤ(延慶本平家物語) は、異本の多い平家物語にあっても、他本にはこれに該当するものがみあたらないこともあって、史記抄のばあいのように簡単にはいかない。そうかといって、前後の文意から「死ナヌ」と読む方がよいと主張しても説得力にかける。山内氏の博捜の眼は、時代は少し下るが、「思ひに死なれぬ」あるいは「別れには死なれぬ」などの類型的表現の存在を明らかにすることによって、平家物語の例が四段化の確証となりえないことを指摘した。 ところで、国語史研究上、動詞をとりあげるとなると、当然その活用の型と形とが大きな問題となる。山内氏のこの著書もこれを主題にすえ、論述を試みるが、この問題は古くて新らしいこともあって、議論の基礎となる文証はすでに数多く提出されている。山内氏は、まずその一つ一つを、前掲のような博捜に裏づけられた広い知見と深い洞察力によって検討したうえ、確例のみを採用する。しかし、その一方、たとえば、ナ変としての「死ぬ」を、四段活用の「死ぬ」にナ変活用の「往ぬ」が下接して生じたものとするなど、着想の妙による新見の提出も随所にみられる。確実な証拠と新しい提言とが渾然一体となって本書の内容をささえている。 本書は、著者山内洋一郎氏積年の努力と思索の結晶である。ある人は、本書によって、その努力の恩恵にあずかり、ある人はその思索に多大の刺戟を受けるにちがいない。いずれにしても、本書が過去を照し、将来を展望する上で見逃すことのできない一書であることはいうまでもない。 |
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※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。 |