ことばの歴史〈語史研究〉
山内洋一郎著


時代により変化する、ことばの「語史」を考える。


■本書の構成

序 章 ことば(単語)の語史を考える

第一章 古代語への惜別
    歌語「たまゆら」の光と影―幻となりし万葉語へのレクイエム―
    番にをりて―竹取物語から抄物・幸若まで―
    動詞「こうず」の語史―極ず・困ず・昂ずの適否―

第二章 中・近世語の混迷
    川へはいり申候―基礎語の誕生、「這ひ入る」から「
はいる」へ―
    動詞「そぼつ」「そぼふる」―清濁の組み合わせ四種ある語―
    天草版『エソポのハブラス』のことば―その禅語的性格を中心に―
    船頭殿こそゆうけんなれ(狂言歌謡)―「幽玄」それとも「勇健」か―
    「あかうそ」と「まっかなうそ」と―近世のことばに見る「うそ」の強調形―
    雅俗に遊ぶことばの世界―近世初期俳諧、大海集の語彙―
    時代を超えて続く稀なことば―
粗布カコウ下二段動詞「ツ」・副詞「よ(え)」―

第三章 現代の基礎語
    「たくさん」の発生とその漢字―タクサン・卓散・沢山―
    貸与の動詞「くる」の語史―くれる・呉れる・與れる―
    談話の語「話す」などの変遷―語る・話す・しゃべる・黙る―

第四章 中世語さまざま
    恋風ならばしなやかに/こまり申候/何せうぞ、くすんで/きさまにて遊ばし候/法ほきゝよとなく也/契あらば夜こそこんと/春始御悦先祝申候畢/当年蜜柑難得也/水のながれいさぎよき/下戸には、かすていら/心頭を滅却すれば/世中はかべに耳/
せばき物のはしを切る(短材載端)


  ◎山内洋一郎(やまうち よういちろう)……1933年生まれ 奈良教育大学名誉教授 文学博士(大阪大学)




 著者の関連書籍
 山内洋一郎著 活用と活用形の通時的研究



ISBN978-4-7924-1422-1 C3081 (2012.10) A5判 上製本 332頁 本体6400円

   『ことばの歴史 語史研究』刊行について


山内洋一郎

 日本語のことばの歴史を論じたユニークな研究書が、ここに出現した。

 日本語の歴史の研究書といえば、通常は、音韻・文字・文法など、言語の要素それぞれについて、時代別にその状況を把握して、それを統括して体系的に記述するのが常である。本書は、日本語の基本であることば、その一つ一つに発生・変化・進展があり、消滅することもある、それを、ことばに歴史があると考え、「ことばの歴史」を主題、ことば一つ一つの記事を副題とした。

 本書は、語史を「古代語への惜別」「中・近世語の混迷」「現代の基礎語」「中世語さまざま」の四章に編む研究書である。

 日本語のことばは、『広辞苑』(第五版)の凡例に『収載項目は約二十三万』とある如く、膨大な数である。ことばそれぞれに歴史があると見れば、研究対象は数限りない。しかし、研究し、公表する意義ある語、個人的嗜好でなく、ことばの学に寄与する価値のある語としては、選択が求められる。

 ことばには、稀少なことばもあれば、基礎語とされる質量共に一般的な語もある。サ変動詞「す」、ラ変動詞「あり」は、日本語史全史を通じて重要な語であるが、時代を経るにつれ、複雑になり、動詞という枠を外れる用法が生じる。語史研究として、大変魅力的である。本書には、それを扱うこともあるが、特別の生態を見せる語に、詳しくなった。

 「ユニークな」と著者自身がいうのは妙であるが、他に適したことばを思いつかない。語史研究といえる論文は世にあるけれども、一書になるほど書き続ける人はない。本書を見て、対象や方法に、対象の語の説明に独自の良さを見出して下されば刊行の意義があったとしたい。
(奈良教育大学名誉教授・文学博士)
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。