日本近世地域研究序説
大塚英二著


大井川と天竜川に挟まれた中東部遠州地域を対象に、産業構造などの地域の構成要素を分析。地域がどのように統合化してきたのかについても議論し、総合的な分析を行いながら地域史研究の新たなモデルを示す。



本書の構成

序 章 近世地域研究のための覚書

   第一部 地域の技術的特質

第一章 水利なかんずく圦樋技術の展開――袋井地方の用水相論から
第二章 近世中後期の農業技術と報徳仕法――森・金谷地方での検討

   第二部 地域の経済と豪農

第三章 地域産業の担い手としての豪農――遠州地方の炭焼業
第四章 地域金融網における豪農の位置――嶋村山田家の家政改革

   第三部 地域の秩序構造

第五章 山入会の構造と村落間格差――金谷地方の入会山相論
第六章 水利秩序の変容と地域村落間格差――袋井地方の用水相論

   第四部 地域の統合

第七章 社会行政面での統合――中東部遠州地域における議定構造
第八章 経済面からの統合――掛川藩主の金融講と地方御用達の地域金融管理

終 章 中東部遠州地域論の展開――中東部遠州地域とはいかなる地域か


  ◎大塚英二(おおつか・えいじ)……1956年栃木県生まれ 名古屋大学大学院文学研究科博士課程満期退学 現在、愛知県立大学文学部教授



  著者の関連書籍
  大塚英二著 近世尾張の地域・村・百姓成立

  上川通夫・愛知県立大学日本文化学部歴史文化学科編 国境の歴史文化



ISBN978-4-7924-0660-8 C3021 (2008.12) A5 判 上製本 318頁 本体7200円
日本近世地域史研究の新たなモデルを示す
前専修大学文学部教授 青木美智男
  
 日本近世史研究の方法として地域史的観点からの分析の有効性が指摘されてから、かなりの年月が過ぎた。そしてこの間、地域論をベースにした実証的成果が、従来の幕藩領域論や近世村落論を大きく変えるに至っていることは周知の事実であろう。
 本書の執筆者である大塚英二さんは、こうした近世地域史研究をリードされてきた藪田貫さん、渡辺尚志さん、久留島浩さんらとともにその第一線に立ち、これまでいくつもの貴重な研究成果を世に問い、高い評価を受けている研究者である。
 しかしいま、大塚さんの研究成果も含め、これまでの豊富な地域論の研究蓄積を再検討し、何が成果で何が課題かを総括をし、新たな研究課題を示す時期に来ているように思う。そんな時に大塚さんが、この間に発表された実証的研究をまとめられ刊行することになったのは、たいへん時宜にかなったもので、日本近世史研究者には待望の書と言えるだろう。
 なぜなら、本書はこれまでの近世地域研究の研究史にかなりの頁を割き、さまざまな論点について詳細な分析を行い、今後の研究課題を明確に示し、その上で新たな近世地域論の構築に不可欠な視点を示し、その一つ一つについて具体像を提示して見せたからである。さらに重要なのは、それを一地域において論証した点にある。それが地域研究の原点だからである。
 大塚さんは、新たな地域像を構築する課題として、農業生産を支える技術的特性、地域住民の経済活動と信用体系の構造、生活と生産に不可欠な山と水の共同利用の秩序、そして村落秩序の動揺を抑える地域統合のあり方などに注目し、それらの点を手堅い論証でその重要性を論証してみせた。その点で、本書はこれからの近世地域史研究の一つモデルとして、たいへん示唆に富んだお仕事だと思う。近世の村社会や地域に関心を持つ多くの研究者に読まれることを期待するものである。
 
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。