近世尾張の地域・村・百姓成立(なりたち)
大塚英二著



近世の尾張地域とはいかなる地域か? 村を超えた地域・村・百姓の構造化された成立
(なりたち)としての地域秩序を考究する。



■本書の構成

序章 近世地域秩序研究の前提的考察 
〈尾州瀬戸地域を素材に〉
  
はじめに/一 近世期の瀬戸地域を位置づける方法について/二 竈方―村方争論と瀬戸窯業地帯の成立――役認識の変化と身分集団/おわりに――瀬戸地域統合論として

  第一部 境界領域の秩序と生業・生活

第一章 元禄十三年濃尾国境争論と山入会秩序
  
はじめに/一 元禄十三年争論の経過/二 元文・延享期の村落間境争論/おわりに

第二章 瀬戸の有力竈屋と美濃・尾張・三河地域 
〈瀬戸竈屋三右衛門と三河石飛村伊藤家〉
  
はじめに/一 寛永七年瀬戸竈屋三右衛門宛証状と石飛村伊藤家/二 瀬戸竈屋の特権と集団の構造/おわりに

第三章 津島天王祭りと地域秩序 
〈祭礼による土地利用の制限〉
  
はじめに/一 蜂ヶ江堤争論の発生/二 市江車衆と地主弥五左衛門との交渉開始/三 郡奉行への裁許願の提出/四 市江車屋の追願書提出/五 国方役所の本格的な吟味と内済案の提示/六 内済断念から裁許へ/七 蜂ヶ江争論の最終決着/おわりに

第四章 尾張東部丘陵地域と山方同心 
〈尾張藩山同心の日記から見た藩主家族の松茸狩り〉
  
はじめに/一 加藤正左衛門の家系、役務及び日常生活/二 藩主家族の茸狩りと山同心/おわりに

  第二部 地域の成り立ちと百姓経営

第五章 御小納戸金貸付と津島村有力百姓
  
はじめに/一 津島村佐藤源七の御小納戸金借り出し/二 佐藤源七困窮の実情/三 佐藤源七の御小納戸役所との攻防―担保と保証人―/四 渡邉新兵衛の御小納戸金拝借の攻防/五 渡邉新兵衛の御小納戸金拝借実現と御囲い稗/六 渡邉新兵衛の御小納戸金返済の様子/おわりに

第六章 百姓の分散と豪農 
〈尾張国中島郡の事例〉
  
はじめに/一 嘉藤次家借金の構造/二 嘉藤次家分散の引き金/三 嘉藤次家分散の経緯/四 嘉藤次家分散執行の実態/おわりに

第七章 寺院金融講と村共同体 
〈長尾村皆満寺金融講訴訟一件〉
  
はじめに/一 皆満寺講の概略/二 争論=訴訟の発端/三 争論の関係者と最初の内済/四 内済に対する反発――善蔵の欠込訴訟/五 善蔵からの再嘆願書/六 善蔵を後押しする者/七 欠込訴願への村方の対応/八 訴願取り扱いの停滞など/おわりに

第八章 村共同体の村外地主控え地返還闘争
  
はじめに/一 尾州知多郡村木村の村外地主らに対する訴訟の提起/二 地主側からの反論/三 内済としての決着/おわりに

終 章 近世の尾張地域とはいかなる地域か
  
一 領国地域としての尾張を扱うことと社会研究との相違/二 尾張地域の地理的把握/三 尾張地域の特徴とは何か

    
論文初出/あとがき/事項索引/人名索引/地名索引


  ◎大塚英二(おおつか えいじ)……1956年栃木県生まれ 名古屋大学大学院文学研究科博士課程満期退学 現在、愛知県立大学日本文化学部教授 博士(歴史学)



  著者の関連書籍
  大塚英二著 日本近世地域研究序説

  上川通夫・愛知県立大学日本文化学部歴史文化学科編 国境の歴史文化



 
◎おしらせ◎
 『日本歴史』第809号(2015年10月号)に書評が掲載されました。 評者 岸野俊彦氏



ISBN978-4-7924-1026-1 C3021 (2014.11) A5判 上製本 326頁 本体8,500円

  近世の尾張地域とはいかなる地域か


 本書は前著(『日本近世地域研究序説』清文堂出版、二〇〇八年)と対をなすものである。前著は中東部遠州地域という非領国地域に特有の秩序の在り方を示した。それに対して、本書は尾張地域という領国地域の特徴を扱っている。その意味で、前著と対をなすのである。また、当該地域にかかわって「尾張藩社会」研究グループによる大きな研究蓄積があるが、違いを一言で述べれば次の一点に尽きる。即ち、岸野俊彦氏を主宰として今も続くグループの研究は社会研究であって地域研究ではないという点である。地域研究は地域の論点に収斂するものである。
 ところでまず、尾張地域を木曽川で区切られた沿岸部とその周辺平野部という括り(尾西・尾北)、美濃・三河山間部に接しその地勢的連続・影響のある東部丘陵地域とその延長としてある知多半島部という括り(尾東・知多)、そしてそれらをつなぐ尾張中央部という三つの地域設定から始めたい。尾西・尾北地域は、非常に具体的な形で木曽川との関係性を有している。一方、尾東・知多地域ではおしなべて丘陵地帯が広がり、御林も数多く設定されていた。山や川をめぐる地勢上の違いは人々の生業や暮らしに直接関わっており、同じ尾張に属しながらも、この二つの地域は生活様式の面などにおいて顕著な対比を見せることとなった。それらを踏まえ、近世の尾張地域とはいかなる地域かまとめたい。まず一点は、非領国地域で見られるような経済的つながりを背景とした自治的な郡中・組合村議定組織が存在しない点。第二の点は、非領国地域が軍事的関係性の上で地域としての特徴(まとまり)をそれほど有していないのに対し、領国地域としての尾張地域は山同心の事例で見たように、軍事上の問題から、周辺地域との関係性を重視していたと考えられる点である。以上二点から、近世の尾張地域は尾張藩が成立した段階から、政治支配の枠組みを基調とした地域単位が設定され、徐々にその内実を有するに至ったと考える。
 本書は、以上のように尾張地域の大枠での特徴をとらえた上で、村を超えた地域・村・百姓の構造化された成立
(なりたち)としての地域秩序を考究したものである。
(大塚英二)
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。