■市場と流通の社会史 全3巻 | |||||
T 伝統ヨーロッパとその周辺の市場の歴史 山田雅彦編 全10章の独立した論稿から、かかるテーマに関する可能な限りの通史を構成する。そこからみえてくるのは、市場における自生的で自由な運動と、それを統制し管理しようとする作用の相互関係の問題である。 序 ヨーロッパとその周辺を対象とした市場と流通の「社会史」……京都女子大学 山田雅彦 T カロリング朝フランク帝国の市場と流通 ―統一王国の時代を中心に―……京都女子大学 山田雅彦 U フランス中世の地方都市と市場……九州産業大学 大宅明美 V 中世アイスランドと北大西洋の流通……京都大学 松本 涼 W ヴェネツィアの市場……信州大学名誉教授 齊藤寛海 X 十五、十六世紀オスマン朝の市場メカニズム ―法令集におけるイフティサーブの分析を中心に―……日本学術振興会 澤井一彰 Y 市場史に見るイギリスの近代化……東洋大学 道重一郎 Z 近世ドイツ・中欧の大市 ―内陸商業の結節点―……長崎県立大学 谷澤 毅 [ 市場史に見るフランスの近代化……成蹊大学 内田日出海 \ ロンドンの拡大と市場 ―市場の開設をめぐる特権と大衆の消費―……福井県立大学 原田政美 ] 十九世紀アメリカにおける市場……熊本大学 三瓶弘喜 |
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ISBN978-4-7924-0933-3 C0320 (2010.12) A5判 上製本 316頁 本体3800円 | |||||
U 日本とアジアの市場の歴史 原田政美編 人々の生活に必要不可欠な食料品をはじめ様々な商品を供給し続けた市場について日本の近世〜近代、さらにアジアにおける歴史を明らかにする。 T 近世城下町の生鮮食料品市場……同志社大学名誉教授 藤田貞一郎 U 日本における卸売市場制度成立史 ―仏・英・独を参照事例とする日本の卸売市場制度成立に関する比較史試論―……福井県立大学 原田政美 V 戦前期のわが国における日用品小売市場の形成と展開……大阪大学 廣田 誠 W 大野勇の市場論……東北大学 長谷部弘 X 漁業資本と水産物供給……中国・山西大学 高 宇 Y 韓国における小売市場の成長と限界……韓国・ロッテ未来戦略センター 白 寅秀 Z 近代北京における公設市場の開設と展開 ―東安市場の事例から―……中国・北京理工大学 于 小川 [ ムガル朝と市場……長崎県立大学 長島 弘 |
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ISBN978-4-7924-0935-7 C0320 (2012.9) A5判 上製本 290頁 本体3800円 | |||||
V 近代日本の交通と流通・市場 廣田 誠編 近代化の中で飛躍的に発展した鉄道網・陸上交通網が経済と社会にあたえた影響をよみとく。人と物の流れから考える近代史研究。 序 近代日本の交通と流通・市場……大阪大学 廣田 誠 T 戦前期山梨県における鉄道輸送の発展と地域経済 ―中央線をめぐるルート間競争とルート内競争―……慶応義塾大学 牛島利明 U 近代神戸市における都市化と交通・小売商業……神戸学院大学 赤坂義浩 V 戦間期大阪における食料品輸送と市場 ―自動車を中心に―……帝塚山大学 伊藤敏雄 W 昭和初期から戦前期にかけての百貨店による新たな市場開拓と大衆化 ―大阪におけるターミナルデパートの成立を中心に―……中部大学 末田智樹 X 近代における小運送問題解消と物流の発展……中京学院大学 関谷次博 Y 鉄道の電化と地域の小売商業 ―昭和三十年代の兵庫県播磨地域を事例として―……大阪大学 廣田 誠 Z 環境の変化と零細小売業 ―滋賀県の零細小売業による大型店対応の事例から―……島根大学 北山幸子 |
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ISBN978-4-7924-0936-4 C0321 (2011.11) A5判 上製本 266頁 本体3800円 | |||||
シリーズ『市場と流通の社会史』刊行に寄せて | |||||
九州大学名誉教授 森本芳樹 |
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市場史に関するたいへん興味深い三巻本シリーズが刊行されるのを機会に、最近におけるこの分野の展開の意味を強調しつつ、推奨の辞を寄せさせていただく。『市場と流通の社会史』は、世界史の様々な時代と地域を通して展開してきた市場を巡って、三〇名近くに及ぶ研究者がそれぞれの研究領域から最新成果を持ち寄った集大成である。私の専門は西欧中世初期社会経済史であるが、こうした部面についてさえも本シリーズの叙述から新たな論点を学ぶことができそうだ。時代と場所による相違はもちろんのこととして、個別的な人間集団の営為や領域運営の具体的な材料を基礎において、それらの積み重ねと交渉を比較史的に見ていく素材とできるように構成されている。 かつて私自身は、一九九三年度に市場史研究会が本シリーズ第1巻の編者山田雅彦氏を責任者として、『前近代の市場と都市―西欧の場合―』をテーマに取り上げた際に、結論として「市場史研究の現状と展望」を述べて、市場史の広く深い可能性を強調したことがあった。それを受けて一九九六年度の社会経済史学会大会では『市場史の射程』をテーマとして、西欧中世史を軸としながらもイスラム、中国、日本を視野に取り入れた議論を組織した経緯がある。ヨーロッパ中世学界では、市場についてはすでに長い研究史があり、市場が伝統社会においても欠かせない基本要素であることは常識に属しているといってもよいが、わが国における社会経済史の研究では「資本主義の範疇としての市場」という概念のもと、それらの市場はなべて資本主義的市場の萌芽として捉えられ、人間社会のほぼあらゆる形態や段階での交流の場としての実態を直視する志向はきわめて弱かった。そしてマルクス主義の「市場の理論」、新古典派経済学、あるいはピレンヌ学説などのグランドセオリーが、なべて自由な発想の桎梏となっていたのである。 今日においては、市場現象が資本主義に限定されないことは幸い学界の常識である。しかもグローバル化する世界経済の中で私たちは、市場とは何か、市場と社会の関係はどうあるべきか、突き詰めて考えざるを得ない状況になっている。幸いにも二十世紀後半の人文・社会科学が積み上げてきた多様な市場像は、そうした営為の材料を豊富に提供してくれている。どの論稿からも研究のホットな現況とともに、今日の世界へと向けた熱いメッセージが伝わってくる本シリーズが、多くの読者の目にふれることを祈りたい。 |
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市場史研究第二世代の成果 | |||||
立教大学経済学部教授 老川慶喜 |
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近代日本経済史の研究は、大石嘉一郎編『日本産業革命の研究』(上・下、東京大学出版会、一九七五年)を境に新たな段階に入ったといえる。当時の若手研究者は、研究の対象時期を産業革命期から両大戦間期に移し、実証的な研究を深めていった。また、その一方で、これまでどちらかというと生産過程の分析に偏りがちであった経済史研究を、流通や消費の問題も含めて検討しなければならないとし、商品流通史研究、鉄道史研究(近代交通史研究)、そして市場史研究と、新たな研究領域が開拓されるようになった。こうした研究の動向には、経済史研究の課題は、人びとの生活の総体を描くことでなければならないという共通の問題意識があったように思われる。 藤田貞一郎・中村勝氏らによって精力的に進められてきた市場史研究を、第一世代のものとすれば、このたび清文堂出版から刊行されることになった山田雅彦・原田政美・廣田誠編『市場と流通の社会史』(全三巻)は、いわば第二世代による市場史研究の集大成ということができる。編者の三氏が、市場史研究の第二世代に属するというだけでなく、この論文集には市場史研究に集約されながらも、一九八〇年代以降の流通や消費に関する新たな研究動向が反映されているように思われるからである。 とくに、第三巻の廣田誠編『近代日本の交通と流通・市場』は、市場史研究と商品流通史研究・鉄道史研究(近代交通史研究)などが融合して、新たな市場史研究の世界を切り開いているかのように思われる。第一世代の市場史研究は、中央卸売市場や府県市場規則、あるいは公設小売市場などの、どちらかというと制度史的な研究に特徴を見出すことができるが、本書は一九八〇年代以降の日本経済史研究の新たな潮流を組み込みながら、市場の歴史をより多角的・立体的に描き、「社会史」と呼ぶにふさわしい論文集となっている。日本経済史研究に新たな地平を開く企画であり、多くの研究者や学生に一読を勧めたい。 |
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市井の人々は如何にして日用必需品を手にするのか | |||||
滋賀大学経済学部教授 宇佐美英機 |
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モノを交換するという行為は、人類史上の最大の発明であることは論をまたない。そして、人々がこの世に生まれるとともに生存していくうえでの必需品は、衣食住に関わるものが第一義的なものであることも自明である。 社会のあり方は、経済的・政治的、あるいは文化的な違いや発展段階に応じて異なる点があるといえよう。しかし、人間である限り食料を入手しなければ生きてはいけない。このことを前提として、気候状態に則した衣服を着し、何らかの形で雨露を凌いできた。 そして、このような生存に必要なものを交換するという行為を通じて手にしてきたが、それは、人種・国籍や洋の東西を問わず共通してみられたことである。このような交換の慣行は、「沈黙交易」・「贈与と互酬」・「異人歓待」などの史実を通じて明らかにされてきたが、一方で 市(いち)・市場(いちば)・市場(しじょう)を対象として、それらの空間や社会構造を解明するという成果を生み出してきた。 私自身は、近世京都における錦高倉青物立売市場の歴史について若干の史実を明らかにした経験しかもたないが、そのさいに常に念頭にあったことは「市井の人々は如何にして日用必需品を手にするのか」ということであった。「日用必需品」は、人間の経済的・自然的な生存環境に応じて異なるものであろうが、本シリーズは欧米・日本・アジアという地域を取りあげ、多様な視座に基づいて前近代から近現代社会までの市場と流通に係る通時的な分析が網羅されている。 ここで編まれている論稿は、これまでの斯学の研究成果をもとに、さらに一歩進めて最新の研究地平を提供しようとしていることが、論題からも窺うことができる。大いに学び新しい知見をえることを期待せずにはいられない。 |
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※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。 |