尾張藩財政と尾張藩社会
杉本精宏著


財政との苦闘からにじみ出る真実の尾張藩史



■本書の構成


第一章 藩財政最初の百年
  財政確立期/農民への課税/寛文・延宝期の尾張藩財政/天和期の窮乏とその対策

第二章 藩財政膨張の限界
  元禄期の財政/将軍の御成と藩財政/豪農鈴木氏を介した調達

第三章 藩機構縮小と倹約の時代
  継友の治世と財政/宗春治世下の財政/宗勝治世下の財政

第四章 宗睦の藩財政改革の時代
  自然災害と藩財政/藩政の改革/農民たちの藩政参加/藩財政の悪化/宗睦晩年の藩財政

第五章 養子相続の時代
  斉朝治世下の藩財政/藩札発行と藩財政/文政の財政危機/斉朝の隠居と文政末の財政

第六章 天保・弘化期の財政と藩札回収
  産業の発展/天保の財政危機/天保の調達金/御勝手御用達よりの調達金/その他の調達金/仕送り三家の成立/藩札の回収と藩財政

第七章 幕末の藩財政
  嘉永末の財政破綻/安政の財政改革/藩内の負担能力の限界と大坂調達金/明治初年の財政




 著者の関連書籍
 杉本精宏著  尾張藩社会と木曽川



ISBN978-4-7924-0938-8 C0021 (2011.3) A5判 上製本 304頁 本体4,600円
尾張藩社会研究シリーズの基軸
名古屋芸術大学教授 岸野俊彦
 杉本精宏さんが、二〇〇九年二月刊行の『尾張藩社会と木曽川』(清文堂出版)に引き続き『尾張藩財政と尾張藩社会』を刊行することになった。これについては、私は本当に驚きと喜びでいっぱいである。
 前著刊行後、杉本さんは、尾張藩社会研究会の例会で、尾張藩財政についての報告を始めた。『名古屋市史政治編二』や所三男氏の先行研究を批判的に再検討する内容であった。前著刊行七ヶ月後の同年九月刊『尾張藩社会の総合研究四』に、早速杉本さんは「尾張藩財政と尾張藩社会、
安永五年から天保十四年までの財政と調達金を中心に」を掲載した。徳川林政史研究所所蔵の財政史料を詳細に検討したものである。財政関係については、後藤真一さんが「尾張藩大坂調達金と大坂天満屋敷」(『同総合研究二』)で、大坂での調達金等から尾張藩財政を検討していた。また、山中雅子さんが「尾張藩領有下の近江八幡調達金について」(『同総合研究二』)等で近江八幡を、また『同総合研究四』に、尾張藩京都御用所の設立とその運営について」を執筆し、京都での資金調達について明らかにした。また、『愛知県史』の調査・執筆・刊行の進展にともない、多くの地方史料から尾張藩財政を検討する道筋もできた。また、林淳一さんの木曽の研究や杉村啓治さんの裏木曽の研究が、議論と枠組みの内容を豊かにした。杉本さんの『同総合研究四』の論文は、これらを総括する内容と方向性を明らかにしていた。
 それから一年も過ぎないというのに、杉本さんが分厚い原稿を手に「一寸、読んでください」という。何と幕初から廃藩置県に至る、尾張藩財政の全面展開ではないか。いつの間に?杉本さんすごいというのが、私の率直な感想である。
 政治も文化も財源あってのものである。財政の地道な基礎的分析と摺り合わせることで、政治や文化の現実が明らかになる。本書は、尾張藩社会研究の基軸として多くの議論を喚起するものである。また、全国の藩や地域に関わる研究をしている皆さんにも、是非読んでいただき、それぞれの藩や地域と尾張藩社会との比較検討をしていただきたいと思う。

 
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。