近世日本の言説と「知」
地域社会の変容をめぐる思想と意識
浪川健治・小島康敬編


時代・地域を問わぬ「知」の体系の創造者群像


■本書の構成
  序……浪川健治

T部 地域の自己意識
  松前広長と『新羅之記録』『福山秘府』……工藤大輔
  「御国」「他国」「異国」からみた一七・一八世紀の盛岡藩の「国政」「御国之風儀」……兼平賢治
  近世中期の仙台藩伊達家における「御家風」成立と継承……岩田明日香

U部 生産と学問をめぐる「知」の形成
  豊穣をめぐる祈念と営為 
―経験知と創出される儀礼― ……浪川健治
  桜田虎門の思想 
―時勢・学問・学校論を中心に― ……小島康敬
  幕末維新期の盛岡藩と大島惣左衛門
 ―「御国益」をめぐる洋学の歴史的位置― ……岩本和恵

V部 慰霊から招魂へ
  戊辰戦争における戦死者の遺体処理と慰霊・供養 
―弘前藩の事例を中心に― ……澁谷悠子
  戊辰戦争と弘前招魂祭に関する一考察
 ―弘前の平田門人を中心に― ……藤原義天恩

W部 近代移行期の「知」と信仰
  知の媒介人弘前藩士兼松石居の生涯と思想……阿曽 歩
  明治初期旧八戸藩領周辺地域における士族の危機意識とその動向
 ―ハリストス正教会との関連から― ……山下須美礼

  あとがき……小島康敬
    




 編者の関連書籍
 浪川健治 デビッド・ハウエル 河西英通編 周辺史から全体史へ

 浪川健治・佐々木馨 編 北方社会史の視座 第2巻 歴史分野(近世)と文化分野

 浪川健治編  明君の時代 ―十八世紀中期〜十九世紀の藩主と藩政―


 本書の関連書籍
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ISBN978-4-7924-0988-3 C3021 (2013.6) A5判 上製本 330頁 本体8,600円
時代・地域を問わぬ「知」の体系の創造者群像
筑波大学大学院人文社会科学研究科教授 浪川健治
 人間は、社会のなかで生きている。とはいえ、それは無限にではなく時間と空間のひろがりのなかで。
 時間的な、そして空間的なひろがりを、その人間にとっての地域としてみれば、そこには人々の営みが、意識や思想、人的ネットワーク、情報への関心などとなって息づいている。そして、この地域は、単独に存在したわけではなく、自らが文化の主体となり、それらを積極的に発信することによって、また情報の交換を通じてさらに新たな「知」の創造が行われる。こうした、「知」の創造と交換は、自らが何者であるのかというアイディンティティを生みだす。そして、人間はさらなる地域とそこに直接つながりをもつ隣接した周辺域のみならず、あらゆる情報や知識の収集や受容・摂取・変容の機会を重ねることで、直接に自らが関わることのない、より外縁に広がる世界へと「知」を広げることとなる。
 人はそのことによって自らや自らの属する社会集団、地域、そして地域を取り巻く小世界を相対化して、やがてたんなる認識や意識を思想にまで高めていく。まさに、地域こそが文化が生い育つ複合的な、そして交通手段・通信網の発達とも関わりながら自在に伸縮する土壌なのである。また、これらの伸縮と情報交換によって地域は多様化し開かれた地域社会となる。そこでは、それに特質づけられた多元的で創造性に富んだ豊かな「知」の体系性が生み出されるのである。
 それは、歴史としてだけでなく、今日を生きる我々においても同様である。とするなら、それは、歴史的であると同時に、優れて現代的な課題でもあることになる。本書は、その地域としての「東北という北方世界」に営まれてきた生活、知、学問、自国認識、儀礼、信仰などへとまなざしを向ける。「知」という視角から地域のもった歴史的意味を解き明かすのは、二〇代から三〇代までの次の世代を担う若い研究者たちであり、新たな歴史学研究の視角と方法とが、現代的な課題意識のもとに、可能性に満ちた彼らによってここに示される。

 
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。