■北の世界遺産 白神山地の歴史学的研究 森林・鉱山・人間
北方社会史の視座〈歴史・文化・生活〉 別巻
長谷川成一著


世界遺産白神山地の自然と暮らしとの関わりに着目した環境歴史学の白眉。



■本書の構成


 まえがき
―問題の所在―

T部 森 林
 第一章 国絵図等の資料に見る江戸時代の白神山地
 第二章 弘前藩の史資料に見える白神山地
 第三章 近世後期の白神山地
 第四章 白神山地における森林資源の歴史的活用 
―流木山を中心に―

U部 鉱 山
 第一章 近世前期津軽領鉱山の開発と白神山地
 第二章 延宝・天和期の尾太
(おっぷ)銀銅山 ―御手山の繁栄と衰退―
 第三章 天和〜正徳期
(一六八一〜一七一五)における尾太銅鉛山の経営動向
 第四章 一八世紀〜二〇世紀の尾太鉱山史 
―付・特論 尾太鉱山の囚人労働について―

V部 人 間
第一章 一八世紀前半の白神山地で働いた人々 
―最盛期尾太鉱山を事例として―
第二章 「天気不正」風説と白神山地
第三章 足羽次郎三郎考 
―その虚像と実像―
第四章 足羽次郎三郎と大坂の住友泉屋

あとがき


  長谷川成一(はせがわ せいいち)……弘前大学附属図書館長・資料館長



 北方社史の視座
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ISBN978-4-7924-0999-9 C3321 (2014.1) A5判 上製本 口絵4頁・本文376頁 本体6,500円
環境歴史学の白眉
国際日本文化研究センター教授 笠谷和比古
 本書は長年にわたって津軽・弘前そして東北地方をフィールドとして歴史学研究を続けてこられた長谷川成一教授の最新論集である。これまで弘前藩政史の分野で数多くの優れた研究成果を世に送り出してきた同氏の最新論集は、世界自然遺産の白神山地を舞台に人々の多様な関わりのあり様を解明していくという、いわば環境歴史学とも呼ぶべき新しい分野を切り開くパイオニア的な研究として位置づけられるであろう。
 白神山地は原生的な自然が太古の時代から今に続くが如き印象を持たれているが、現実には林業、鉱山業がさまざまな形で営まれることによってその相貌が時代とともに変容していること、そしてまた同山地が孤立した自然ではなくて津軽・秋田両領域をつなぐ、民衆交流の場であったことが明らかにされていく。
 本書は三部に分かれ全一二章によって構成される。T部では白神山地が絵図や文献に どのように描かれてきたかを丹念にたどり、森林利用の実態解明をテーマとする。U部では白神山地における鉱物資源開発の歴史を取り扱う。弘前藩領における鉱山開発についてはこれまで未解明のままであったが、白神山地の尾太
(おっぷ)鉱山に着目し、その銀山から鉛銅山へと展開していく様相を跡づけていく。V部では一八世紀の半ばに行われた弘前藩宝暦改革において重要な役割を演じた津軽の商人足羽次郎三郎の事蹟を中心に取り上げる。従来の足羽像とは異なる鉱山経営者としての足羽の実像を析出していくとともに、気象問題などにも目を向けつつ、人々の日々の生活と鉱山稼業との深い関わりの様態を明らかにする。
 二一世紀の今日、自然と環境の重要性がいっそう叫ばれる中、本書によって体系的な研究成果が世に送り出されることになった環境歴史学の重要性については言を俟たない。自然を人から切り離された無垢の聖域としていたずらに崇めるのみではなく、人間の日々の生活との関わりの中で、そしてさまざまな形態をもった営みとの関わりの中で自然なるものの存在意義を位置づけていく本書の価値は、今後いやましてその高まりを認識させてくれることであろう。


※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。