都市社会史の視点と構想
法・社会・文化
塚田 孝著



第一部「近世大坂の法と社会」、第二部「近世大坂の町と仲間」とに編成し、大坂の都市社会史に関する論考をまとめる。〈法〉〈社会〉〈文化〉をキーワードに、都市大坂を舞台とした都市社会史を全体史として把握するための構想を提示し、そのための分析方法や視角を提起する「共同の営為としての歴史学」の成果。



■本書の構成

序章 都市法
  
はじめに/一 都市法の重層的な構成と公儀法度/二 社会集団を規律する法/三 集団間の関係を規定する法/おわりに

  第一部 近世大坂の法と社会

第一章 近世大坂の法と社会
  
はじめに/一 町触研究の条件と状況/二 一七世紀の大坂の町触/三 惣年寄・惣代と都市法/おわりに

補論1 「町触頭書」と「口達触頭書」について


第二章 近世大坂における芝居地の《法と社会》  
――身分的周縁の比較類型論にむけて――
  
はじめに/一 比較類型論にむけて/二 一七世紀の芝居興行をめぐる動向――予備的整理/三 芝居仕置/四 役者仲間/おわりに

補論2 近世大坂の芝居町
補論3 近世大坂の人形浄瑠璃興行の周縁


第三章 宿と口入
  
はじめに/一 番衆の下々と宿/二 人宿の可能性/三 奉公人肝煎惣代の出願/四 出替り奉公人と口入渡世/おわりに

  第二部 近世大坂の町と仲間

第一章 一七世紀における都市大坂の開発と町人
  
はじめに/一 道頓堀の開発/二 開発の進展と安井家/おわりに

第二章 一七世紀の大坂・三津寺町
  
はじめに/一 道心者改めと借屋/二 大福院行円/三 三津寺町の構成と借屋/おわりに

第三章 近世後期・大坂の髪結に関する一考察
  
はじめに/一 床髪結と町髪結/二 町髪結の日常/三 三津寺町の町髪結/おわりに

第四章 近世大坂の都市社会と文化
  
はじめに/一 文人社会(ネットワーク)/二 伝統社会(共同組織)/三 下層社会(流動的かつ不安定)/四 連接のあり方

補論4 都市社会と文化のために


第五章 木村蒹葭堂と北堀江五丁目 
――近世大坂の都市社会構造との関連で――
  
はじめに/一 木村蒹葭堂と都市社会の三つの位相/二 北堀江五丁目とその周辺/おわりに

第六章 近代大阪への展開をみる一視点



  ◎塚田 孝(つかだ たかし)……1954年福井県生まれ 東京大学文学部卒業 現在、大阪市立大学大学院文学研究科教授





  著者の関連書籍
  塚田 孝・井上 徹編 東アジア近世都市における社会的結合

  塚田 孝編 近世大坂の法と社会

  塚田 孝編 身分的周縁の比較史

  塚田 孝・佐賀 朝・八木 滋・大阪市立大学都市文化研究センター編 近世身分社会の比較史

  塚田 孝・佐賀 朝・渡辺健哉・上野雅由樹編 周縁的社会集団と近代


ISBN978-4-7924-1036-0 C3021 (2015.3) A5判 上製本 350頁 本体8,000円

  都市社会史の視点と構想


 本書は、二一世紀に入って発表してきた大坂の都市社会史に関する論考をまとめた論集である。本書所収の論考は、新たな史料分析を踏まえながらも、都市大坂を舞台として都市社会史を「全体史」として把握するための構想を提示すること、そのための分析方法や視角を提起することを主たる目的としている。それらを、第一部「近世大坂の法と社会」、第二部「近世大坂の町と仲間」に編成したが、全体を貫くキーワードが〈法〉〈社会〉〈文化〉である。
 二〇〇二〜六年度に取り組んだ二一世紀COEプログラムにおいて「都市文化」の創造について考えることになった。そのうち芝居地や芸能興行については、二〇〇三年度から始まった文学研究科の上方文化講座とも深く関わっていた。その中で、文化を狭くとらえず、人々が暮らしていく暮らし方・生き方の総体を広く文化と捉えるべきではないかと考えるようになった。それを強く思ったのは、近年よくみられる「町づくり」に文化や歴史を活かすと称して、その商品化・資源化を推奨する動きに違和感を持ったからである。歴史の商品化・観光資源化は、人間と歴史の全体性を切り刻み、矮小化することになるであろう。
 二〇〇〇年代半ば以降、私が研究代表として取り組むことになった二つの科研プロジェクトでは、身分的周縁の立場から大坂の都市社会史を推進することをめざしていたが、そこで一貫して重視したのが《法と社会》という視点であった。町触などの法史料を精緻に分析し、そこから社会構造を見通すことをめざしている。
 二一世紀に入って、大学と社会をめぐる状況が大きく揺れ動いている。否応なく、それらにも対応しなければならなかったが、それだからこそ、それまではあまり自覚することなく実践していた“共同の営為としての歴史学”を自覚的に進めることの意義を強く意識するようになった。本書は様々な共同研究に参加して書いてきたものを編集したものである。改めて、これまでの共同研究に参加できたことに感謝するとともに、“共同の営為としての歴史学”が如何に大切かをかみしめている。
 特に近世大坂研究会は、大阪市立大学において近世史を学ぶ・学んだ人たちをはじめ、国内外の研究者のネットワークに支えられた私たちの共同研究の場である。その近世大坂研究会の主催で、二〇一四年七月に私のこれまでの研究を検討する円座を開催していただいた。私が六〇歳になる機会にこうした場を準備していただいたみなさんに心から感謝している。
 この準備を横目で見ながら、自分でも何か記念になることができないかと考え、本書の刊行を思い立った。本書を、次なる研究展開に向けた跳躍台とすることを期しつつ、“共同の営為としての歴史学”を進めていきたい。
(塚田 孝)
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。