■畿内譜代藩の陣屋と藩領社会 | |||||
齊藤紘子著 | |||||
和泉国に陣屋を置いた譜代小藩・伯太藩とその藩領社会の実態を把握するため、藩家臣団と陣屋の構造、陣屋元村と藩領社会との関係、藩領社会の村落構造の展開を具体的に関連させつつ分析する。これまでまったく未解明だった一万石を少し超える程度の譜代小藩の支配の実態を解明する画期的な業績であり、藩政史料がない中での今後の譜代小藩研究への道を切り拓く。 ■本書の構成 序 章 一 近世畿内の陣屋元村について 二 藩領社会の構造と村社会の把握 三 対象地域の概要と本書の構成 第Ⅰ部 伯太藩の陣屋と藩領村々 第一章 伯太藩の家中形成と大坂定番 ――「家老」家々の来歴から―― はじめに 一 伯太藩と渡辺家「家中」の構成 二 由緒書からみる「家老」家々の来歴 三 一七世紀大坂での「家中」召し抱え おわりに 第二章 伯太藩による藩領支配の展開 はじめに 一 享保期までの伯太藩 二 畿内移転後の陣屋変遷と領内支配 三 伯太藩財政と触頭・郷惣代 おわりに 第三章 伯太陣屋と陣屋元村 はじめに 一 近世伯太村の空間構成 二 陣屋移転と伯太村 三 陣屋元村の都市性と村落秩序 おわりに 第四章 大坂定番期の武家奉公人調達 ――泉州上神谷郷を対象に―― はじめに 一 定番期の屋敷奉公人確保 二 上神谷郷における屋敷奉公人の出願状況 三 豊田村における屋敷奉公人減少とその背景 おわりに 第五章 伯太陣屋の武家奉公人調達と所領村々 はじめに 一 伯太藩の奉公人徴発と郷の対応――陣屋元下泉郷を中心に 二 村々における出人確保 三 与内支給をめぐる奉公人・郷・藩の利害 おわりに 第Ⅱ部 伯太藩領の村落構造――泉州泉郡を中心に 第六章 泉州泉郡平野部における相給村落の成立 ――池上村を事例として―― はじめに 一 池上村における文禄三年検地 二 集落と捌き高 三 大村・かいと村統合期の庄屋 四 一八世紀前半の「本郷」と「出作」 おわりに 第七章 山里春木川村の村落秩序と山用益 はじめに 一 近世春木川村の山と耕地 二 村山における用益の展開――文政期の山論から 三 近世末~明治期初頭の山の用益――蜜柑畑開墾をめぐって おわりに 補論 一九世紀伯太藩領の倹約令と「村方取締書」 はじめに 一 一九世紀春木川村の「村方取締書」 二 上神谷郷「郷中申合倹約之事」と豊田村の村方取締書 三 村方取締書の作成過程と領主規制 おわりに 終 章 一 伯太藩の展開と「陣屋元地域」の形成 二 村落社会の変容と藩領社会――陣屋元の下泉郷を中心に ◎齊藤紘子(さいとう ひろこ)……1983年京都府生まれ 大阪市立大学大学院文学研究科日本史学専修後期博士課程修了 現在、京都精華大学人文学部講師 博士(文学) 本書の関連書籍 塚田 孝編 近世大坂の法と社会 塚田 孝・佐賀 朝・八木 滋編 近世身分社会の比較史 ◎おしらせ◎ 『日本歴史』第860号(2020年1月号)に書評が掲載されました。 評者 野尻泰弘氏 『民衆史研究』第99号(2020年5月号)に書評が掲載されました。 評者 小松賢司氏 『大阪歴史学会』第280号(2020年6月号)に書評が掲載されました。 評者 角和裕子氏 |
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ISBN978-4-7924-1089-6 C3021 (2018.11) A5判 上製本 350頁 本体7,500円 | |||||
譜代小藩から近世社会を見通す |
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大阪市立大学大学院文学研究科教授 塚田 孝 |
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齊藤紘子さんの研究の出発点は、和泉国泉郡の山間の小村落・春木川村の村落構造分析であった。二回生の時に大阪市大日本史研究室と和泉市教育委員会の合同調査で春木川町の史料と出会ったのである。卒論で春木川村の村落構造に取り組んだが、その春木川村は伯太藩領であった。齊藤さんが次に取り組んだ池上村は、大和小泉藩と伯太藩の相給であったが、伯太藩領は人別のない高(土地)だけの村請制村であった。さらに和泉市史の取組みで新史料が発見され、町田哲氏による詳細な村落構造分析が行われた黒鳥辻村も伯太藩領であった。 齊藤さんは、これらの村々の村落構造分析に取り組んできたが、そこに残る伯太藩の奉公人徴発関係の史料から、伯太藩の支配と村々の地域性(陣屋周辺か遠隔の山間か、人別の有無など)の相互規定関係を浮き彫りにしていった。そこから導かれる次の課題として、陣屋がおかれた伯太村について、陣屋の構造と熊野街道沿いに新町が生成する状況の解明に向った。こうして課題を伯太藩に集約して研究を進めていったのである。 そこでは、武蔵国に知行所のあった旗本渡辺氏が大坂定番を勤めることで畿内に一万石の加増を受けて譜代小藩として成立する過程を跡づける。旗本時代からの家臣に加えて、大坂定番に就任した際に、大坂において牢人を抱えたり、他家の与力から抱えることで、伯太藩家中の中核が形成されたことが明らかにされ、また二度目の定番を勤めた一八世紀前期には、大坂の定番屋敷が地方支配の拠点ともなっていたことなどを解明していった。 本書は、こうした齊藤さんのこれまでの研究を、譜代小藩である伯太藩の家中と藩領社会の総体的な把握に向けて再構成したものである。本書が、これまでまったく未解明だった一万石を少し超える程度の譜代小藩(藩の中では多数を占める)の支配の実態を解明したものとして画期的成果であることは言うまでもない。藩政史料がない中で、村落社会の側から解明したことは、今後の譜代小藩研究への道を切り拓くという点で方法的な意義も大きい。 それだけでなく、先の研究プロセスの紹介から理解できるように、齊藤さんには徹底的な村落構造分析が基礎にあるのであり、だからこそ「上から」の藩支配論ではなく、「下から」地域社会論に伯太藩支配を包摂することに成功した。それは、幕領と藩領を問わず、幕藩制「社会」の研究全体に方法的な示唆を与えるものと言えるであろう。 本書は、近世史の多様な問題にも広がりを持っている。城下町の発展段階におけるプロト城下町(陣屋元村)の位置づけ、日用層(労働力)論とも深く関わる武家奉公人論や、山間地域での商品(果樹など)生産・流通の進展と関わる都市と農村の関係論でもこれまでの研究を大きく発展させるものである。 緻密な実証分析と大きな構想力に裏打ちされた本書が幅広い読者を得て、近世史研究の発展につながることを願っている。 |
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※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。 |