■幕末期狂言台本の総合的研究 大蔵流台本編 | |||||
小林千草著 | |||||
書誌・日本語学・表現論からのアプローチからひもとくとともに、幕末期大蔵流狂言台本の翻刻・成城本狂言「武悪」総索引を収録する。 ■本書の構成 第T部 幕末期狂言台本の書誌的研究と日本語学的・表現論的研究 第一章 成城本「柿山伏」の書誌と考察 一 はじめに/二 書誌的事項/三 「柿山伏」の表記/四 「柿山伏」の本文について/五 「柿山伏」の語彙・表現/六 おわりに 第二章 成城本「鏡男」「鬼瓦」の書誌と考察 一 はじめに/二 書誌的事項/三 「鏡男」について/三・一 「鏡男」の表記/三・二 「鏡男」の本文について/三・三 「鏡男」の語彙・表現/三・四 「鏡男」まとめ/四 「鬼瓦」について/四・一 「鬼瓦」の表記/四・二 「鬼瓦」の本文について/四・三 「鬼瓦」の語彙・表現/四・四 「鬼瓦」まとめ/五 おわりに 第三章 成城本「悪太郎」の書誌と考察 一 はじめに/二 狂言台本としての成城本「悪太郎」の状況/三 本文の性格/四 成城本「悪太郎」と虎寛本―セリフの有無・出入りより―/四・一 「序の段」比較考察/四・二 「破の段」比較考察/四・三 「急の段」比較考察/五 おわりに 第四章 成城本「老武者」の書誌と考察 一 はじめに/二 「老武者」について/三 成城本「老武者」と虎寛本「老武者」との相異箇所/四 相異から見える語彙・表現の特性/四・一 文や句の増減/四・二 文増減にかかわりのない語・句の増減/四・三 助詞の相異/四・四 感動詞に関する相異/四・五 敬語に関する相異/四・六 語句の相異/四・七 四・一〜四・六のまとめ/四・八 謡仕立ての部分における相異/五 発展的考察――「岡氏署名本」狂言の性格/五・一 「岡」「岡氏」と署名された六冊の書誌/五・二 〈岡氏署名本〉における狂言の性格―虎寛本との似より度など―/五・三 〈岡氏署名本〉における間狂言について/六 おわりに 第五章 成城本「骨皮」「墨塗」の書誌と考察 一 はじめに/二 狂言台本としての成城本「骨皮」「墨塗」の状況/三 成城本「骨皮」と虎寛本―セリフの有無・出入りより―/三・一 「序の段」比較考察/三・二 「破の段」比較考察/三・三 「急の段」比較考察/三・四 大蔵虎光本と比較して/三・五 「骨皮」まとめ/四 成城本「墨塗」と虎寛本/五 おわりに 第六章 成城本「武悪」の書誌と考察 一 はじめに/二 書誌的事項/三 「武悪」の表記/四 「武悪」の本文比較/五 相異から見える語彙・表現の特性/五・一 成城本独自のセリフ/五・二 セリフは同一で会話箇所の異なるもの/五・三 くり返し回数の相異/五・四 語句の増減(助詞・感動詞・敬語表現以外)/五・五 助詞の増減と相異/五・六 感動詞の増減と相異/五・七 敬語に関するものや一般語彙の相異/六 おわりに 第七章 成城大学図書館蔵『狂言集』のうちの大蔵流台本の資料的位置づけと言語状況 一 はじめに/二 「柿山伏」の欠けた本文について/三 「ほどに」「によって」(「よって」)から見る当該台本の資料的位置づけ/四 終助詞「は」(わ)から見る当該台本の資料的位置づけ/五 オノマトペから見る当該台本の資料的位置づけ/五・一 「鬼瓦」のオノマトペより/五・二 「骨皮」のオノマトペより/六 おわりに 第U部 幕末期大蔵流狂言台本の翻刻 [一]成城本「柿山伏」/[二]成城本「鏡男」/[三]成城本「鬼瓦」/[四]成城本「悪太郎」/[五]成城本「老武者」/[六]成城本「骨皮」/[七]成城本「墨塗」/[八]成城本「武悪」 第V部 成城本狂言「武悪」総索引 巻末索引(第T部より。第U部、第V部は曲名のみ採録) ◎小林千草(こばやし ちぐさ)……博士(文学) 佐伯国語学賞・新村出賞受賞 1946年生まれ、京都育ち。 東京教育大学大学院文学研究科修士課程修了 成城大学短期大学部教授・東海大学文学部教授をへて、現在、東京女子大学・文教大学非常勤講師 著者の関連書籍 小林千草著 日本書紀抄の国語学的研究 小林千草著 幕末期狂言台本の総合的研究 鷺流台本編 小林千草著 幕末期狂言台本の総合的研究 和泉流台本編1 千 草子著 ハビアン 千 草子著 Fabian Racujit (ハビアン落日) 千 草子著 南蛮屏風の女と岩佐又兵衛 |
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ISBN978-4-7924-1435-1 C3081 (2016.10) A5判 並製本 310頁 本体3,800円 | |||||
研究者とその研究資料との出会いは、さまざまである。しかし、その中のいくつかは、運命的にと言ってよいほどの重みをもつことがある。 私にとって、その一つは、卒業論文を書くにあたって、恩師大塚光信先生が「この抄物を調べてみないか」と示された古活字版『日本書紀抄』(の写真)である。さらには、イエズス会修道士(イルマン)不干(斎)ハビアンの『天草版平家物語』『妙貞問答』『破提宇子』であり、さらには、太田牛一の『信長記』『大かうさまぐんき』である。 本書で扱う成城大学図書館蔵『狂言集』一四冊も、その一つに加えることが可能であろう。私が、成城大学短期大学部日本語・日本文学コース在任中に、研究資料そして教材となるように研究費で購入していただいたものである。未翻刻資料の翻字練習などよい教材になると思ったし、第一、幕末期の狂言台本の実態解明に大きな興味があったからである。破本集成であるゆえに、古書店より手ごろな値段で出ていたことも幸いして、手元に届くことになった。 奥書・識語などの手がかりに薄いこれら一四冊を教材としていかに料理すればよいかの前に、資料的性格の究明が先決であることに思い至り、授業の合間に研究室で翻字にとりくみながら、気づいた用語・表現は、カードやノートにメモしていく。しかし、大学での雑務も多く、全貌を把握する作業は遅々として進まなかった。 そのうち、縁あって東海大学に転任することとなり、この「狂言集」一四冊は、日本語・日本文学コース保管を経て、短期大学部廃止(新学部への発展的解消)とともに、成城大学図書館蔵となっていった。 一方、その写真をたずさえて東海大学に移った私は、大学院の授業で翻字を含む取りくみを展開した。授業で使う曲については、その前に全て調べ終おえてというノルマを課してのぞんだので、東海大学を定年退職する頃には、かなりのことが判明し、次々に調査報告可能な状態となった。 本書は、こうして発表した研究論文をもとに構成したものである。大蔵虎明本狂言や虎寛本狂言のように世に知られ、公刊されている資料ではないので、翻刻を同時に収めた方が親切であろうと、多くの論文で「翻刻と考察」という語を論題(タイトル)に含んでいる。本書では、それら翻刻部分は、第U部の翻刻編に移して構成している。 成城大学図書館蔵『狂言集』は、一四冊で、奥書・識語のない冊がほとんどであるが、 ○幕末期の台本集成である ○大きく、大蔵流・和泉流・鷺流の三グループの台本群に分けられる ことがわかったので、 『幕末期狂言台本の総合的研究 大蔵流台本編』 『幕末期狂言台本の総合的研究 和泉流台本編』 『幕末期狂言台本の総合的研究 鷺流台本編』 という形で公刊し、日本語学や能楽資料としてだけではなく、広く利用していただくことを願っている。 この幕末期狂言台本を読むことで、私は逆に、寛永一九年(一六四二)に大蔵虎明がまとめた大蔵虎明本狂言、寛政四年(一七九二)に大蔵虎寛がまとめた虎寛本狂言の意義がより鮮明になった。これは大蔵流の場合であるが、和泉流、鷺流でも同じような快いゆさぶり≠受けた。宗家直系ではなく、セミプロの狂言役者が役を演じることを認められた時、許可されて書写した台本、あるいは、その折師匠より口伝(くちづた)えされたセリフを台本化したもの、それらが、この成城大学図書館蔵『狂言集』を構成しているのだと思うと、資料になつかしささえ覚える。 本書をなす研究の一つ一つは、著者の立脚する日本語学(それは旧来の「国語学」と言いかえてもよい)のアプローチでなされている。しかし、狂言台本が能狂言研究(広くは「能楽」という芸能研究・文学研究)の一大資料であることから、能楽研究や広く文学研究とも無縁ではない。第T部を「幕末期狂言台本の書誌的研究と日本語学的・表現論的研究」としたのは、そのような分野まで含めていることを示したかったからである。それらを一口で言うならば、本書の書名「幕末期狂言台本の総合的研究」となるのである。目標であり、願いでもある。 |
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(小林千草) |
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※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。 |