■正倉院文書と日本古代銭貨 | |||||
栄原永遠男著 | |||||
![]() ■本書の構成 序 第Ⅰ部 正倉院文書研究の意義 第一章 正倉院文書研究の現状と課題 一 正倉院文書研究の現段階 二 「断簡」の「接続」の確認が意味すること 三 記載内容が意味すること 四 正倉院文書研究の今後 補論 大阪市立大学における写経所文書研究 第Ⅱ部 写経所文書の検討 第二章 正倉院文書と続日本紀 ――国家的写経機関の検討―― はじめに 一 内裏系統の写経機関の存続 二 国家的写経機関の変遷 三 国家的写経機関における写経事業 む す び 第三章 華厳経関係経典の書写 はじめに 一 華厳経の書写 二 華厳経疏の書写 む す び 第四章 写経所の施設とその変遷 はじめに 一 光明子家の写経施設 二 写経司・東院写一切経所の写経施設 三 福寿寺写一切経所・金光明寺写一切経所の写経施設 四 東大寺写経所の写経施設 五 石山写経所の写経施設 六 東大寺写経所の写経施設 七 奉写一切経所の写経施設 む す び 第五章 日本古代の写経所における紙の文書と木簡 はじめに 一 短籍と食口案 二 下道主と木簡 三 正倉院の雑札 四 往 来 類 む す び 第六章 佐保宅の性格とその写経事業 はじめに 一 正倉院文書に見える佐保宅など 二 佐保宅の写経事業 三 佐保宅の主と佐保宮 む す び 第七章 正倉院文書からみた珎努宮・和泉宮 はじめに 一 正倉院文書における珎努宮 二 『続日本紀』における珎努宮と和泉宮 む す び 第Ⅲ部 古代銭貨と正倉院文書 第八章 石山寺増改築工事の財政と銭貨 はじめに 一 「造石山院所解」(秋季告朔)の分析 二 「造寺料銭用帳」の分析 三 「米売価銭用帳」の分析 四 「雑物収納帳」の分析 五 山作所と銭貨 む す び 第九章 月借銭解に関する基礎的考察 はじめに 一 月借銭の定義と認定 二 層位構造 む す び 第一〇章 月借銭と布施 はじめに 一 宝亀四年「奉写一切経所布施文案」の成立 二 宝亀四年「奉写一切経所布施文案」の布施額 三 布施総額と月借銭の利息総額との対比 む す び 第一一章 「種々収納銭注文」をめぐる二、三の問題 ――盧舎那大仏造顕と知識―― はじめに 一 研究史の整理 二 各断簡の配列 三 「種々収納銭注文」の時期と作成 四 知識の額と封物 五 知識銭の目的と私鋳銭 む す び 栄原永遠男(さかえはら とわお)……現在、東大寺史研究所所長・東大寺学術顧問、大阪市立大学名誉教授、大阪歴史博物館名誉館長 京都大学博士(文学) 著者の関連書籍 栄原永遠男著 日本古代銭貨研究 栄原永遠男編 平城京の落日 |
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ISBN978-4-7924-1524-2 C3021 (2025.1) A5判 上製本 454頁 本体10,500円 | |||||
本書は、正倉院文書に関する前著『奈良時代写経史研究』(塙書房、二〇〇三年)以後に執筆した写経所文書に関する論考を収録したものである。個別写経事業研究がほぼ一段落したことをふまえて、さらなる研究の進展を模索したものが多い。 第Ⅰ部には、写経所文書研究の現状把握とその問題点にかかわる論考を収めた。 第Ⅱ部には写経所文書を素材とした論考を収めた。第二章は、内裏系統の写経機関を、『続日本紀』という別の回路を通じて把握しようと試みたものである。また第三章は、華厳思想の普及の盛衰を考える素材を得ることをめざした。第四章・第五章は、個別写経事業の検討からいったん離れて、皇后宮職・造東大寺司系統の写経機関における写経事業とは別の側面を考えようとした。第六章・第七章は、これまで深く考えられてこなかった佐保宅や珎努宮・和泉宮の実態や性格をほりおこし、それらにまつわる写経事業について検討している。 第Ⅲ部は、正倉院文書に現れる古代銭貨の存在形態や機能の解明をめざした論考を収めた。第八章は、天平宝字六年(七六二)における石山寺の増改築工事の財政と銭貨との関係について検討している。石山寺の工事現場から銭貨がどのように地域的に普及していったのかという問題を考えることもめざした。 第九章と第一〇章は相互に関係が深い。前者は、まずもって基礎的事実の解明をめざしたものである。後者は、前者をふまえて、布施の支給と月借銭との関係についてさらに検討を加えて、月借銭が写経所と写経生の双方にとって何であったのかを考えている。 第一一章は、丹裹古文書という史料群に含まれている一群の「種々収納銭注文」について検討したものである。 * * 最後に、本書の題字と題名についてひとこと述べておきたい。私は、これまで自著の題字を母百代に書いてもらってきた。母の父母すなわち私の祖父母はともに書家で、母も悠甫という号を持っていた。しかしその母は、二〇一三年(平成二十五)六月に亡くなったため、その後はそれがかなわなくなった。 一方、本書の原形となった著書の構想を考え始めたのが何時ごろのことであったか定かでないが、まだ母が健在であったので、その頃に考えていた題名を母に書いてもらっておいた。しかし、その刊行のもくろみは、諸般の事情から進展させることができなかった。その後長い時間をへて、新型コロナ感染症の蔓延のもとで逼塞生活が続くなか、かつての刊行計画を再起動させようと思うようになった。新たに考えた構想は、以前のものとは大きく異なるものとなったが、亡き母の遺墨をなんとか生かしたいと思い、それに合わせて章立てした。このためやや無理のある構成となったが、事情を記してご了解をお願いする。 |
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(本書「序」「あとがき」より抜粋) | |||||
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。 |