軍港都市史研究X 佐世保編
北澤 満編


全7巻完結!
近代都市としての佐世保は、他の軍港都市と異なり、長崎県北部や離島に対する中心都市としての位置づけがあり、物資供給の要となる問屋機能も含めて発展したという特徴がある。敗戦後の佐世保は、中国からの復員船が到着する港でもあり、その復興が大きな課題となった。平和港湾産業都市構想が、朝鮮戦争や海上特別警備隊の設置などの社会情勢に押されて、しだいに軍港論に変化していく様子をも解き明かす。


■第X巻 佐世保編の構成

序 章 産業構造からみる軍港都市佐世保 ………… 北澤 満
  軍港都市の産業構造/本巻の構成

第一章 佐世保の「商港」機能 ………… 木庭俊彦
  はじめに/軍港都市の形成/集散地化する佐世保/「商港」機能の拡充/おわりに

コラム 『商工資産信用録』からみる佐世保の商工業者 ………… 木庭俊彦


第二章  海軍練習兵たちの日常 
―新兵教育から遠洋航海まで― ………… 西尾典子
  はじめに/海兵団における専門教育の意義―技術習得の一側面―/佐世保海兵団への入団と教育方針―教員団の心得―/木工練習兵の日常/練習艦隊による航海訓練/おわりに

コラム 佐世保鎮守府の東郷平八郎 …………  西尾典子


第三章  軍港都市佐世保におけるエネルギー需給 
―石炭を中心として― ………… 北澤 満
  はじめに/佐世保におけるエネルギー需要/軍港都市佐世保への石炭供給/おわりに

コラム 軍港都市佐世保と菓子 ………… 北澤 満


第四章  せめぎあう「戦後復興」言説 
―佐世保に見る「旧軍港市転換法」の時代― ………… 長志珠絵
  はじめに/旧軍港市転換法をめぐる「政治」/港を知る―佐世保の戦後復興論―/朝鮮戦争が始まった/おわりに

コラム 米軍住宅 ………… 長志珠絵


第五章  旧軍港市の都市公園整備と旧軍用地の転用 
―佐世保市と横須賀市の事例から― ………… 筒井一伸
  はじめに―二枚の写真から―/都市公園整備と旧軍用地/旧軍用地の都市公園への転用実態/軍用地転用公園とその周辺の景観変化/おわりに

第六章 一九六八:エンタープライズ事件の再定置 ………… 宮地英敏
  はじめに/エンタープライズ入港と反対運動/事件拡大の要因(一)経済的要因/事件拡大の要因(二)政治的および社会的要因/事件拡大の要因(三)象徴的要因/おわりに

コラム 針尾島と三川内焼 ………… 宮地英敏

  ◎あとがき  ◎事項索引  ◎人名索引



ISBN978-4-7924-1051-3 C3321 (2018.2) A5判 上製本 364頁 本体8,200円

  
日本近代都市史研究の新しい波

佛教大学歴史学部教授  原田敬一

 舞鶴から始まり、景観、呉、要港部、横須賀、国内・海外軍港と巻を重ねてきた「軍港都市史研究」シリーズも佐世保に到着した。海軍の鎮守府が置かれた「軍港都市」に注目するというのは、優れた視点で、陸軍の師団等が置かれた「軍都」とは異なった分析が必要であり、また可能となる。「軍港都市」には海軍工廠等が付属し、そこには海軍軍人以外の職工が多数働いているという状況がある。「軍都」では軍人と一般社会の関係分析にとどまらざるを得ないが、「軍港都市」では軍人・軍属・一般労働者という複雑な構成が当たり前で、それらがどのような都市や都市社会を形成するのかは大いに気になるところである。それが坂根嘉弘氏と舞鶴の結びつきから偶然始まり、全七巻のシリーズにまで発展できたのは、学界にとっての一つの事件でもある。私たちが『地域のなかの軍隊』全九巻を全国の研究者八〇余名で執筆・刊行できたのも珍しい事と言われたが、それには軍港都市史研究が先行して存在し、その成果が私たちのシリーズにも反映している。

 佐世保をとりあげた本巻は、産業構造・商港・水兵教育・石炭・戦後復興・軍用地転換と戦前から戦後までをカバーし、軍事史的分析を含みつつ、「近代都市」としての展開が丹念に分析されている。甘味を供給する菓子店が佐世保七三軒、横須賀一〇軒、呉四〇軒の差についてのコラムも、よく調べられている。近代都市としての佐世保は、他の軍港都市と異なり、北松浦郡・東西彼杵郡などの長崎県北部や離島に対する中心都市としての位置づけがあり、物資供給の要となる問屋機能も含めて発展したという特徴がある。

 「海軍の城下町」という側面を強調して町おこし、観光振興に役立てようというのは二一世紀の現代の話であり、「軍港都市」も軍港だけに頼らない「産業立市」「産業立町」をめざしていたというのは現代を考えるうえでも重要な発見だった。本巻では「商港佐世保」の分析としてまとめられている。それによれば、佐世保の商港を発達させることに対し、海軍では反対せず、市営事業としての浚渫や市営桟橋の完成により佐世保の集散地としての発展が著しくなっていった。菓子店のコラムと通底する経済の動きが明確に示されている。この経済の動きにより、一九二六年釜山―佐世保、一九三三年大連―佐世保の航路が開かれ、植民地や半植民地との物流がさらに高まっていった。

 敗戦後の佐世保は、中国からの復員船が到着する港でもあり(私の父は中国から米軍のLST に乗り、佐世保に上陸した)、その復興が大きな課題となった。四鎮守府の置かれた軍港都市の平和社会へのソフトランディングは、朝鮮戦争直前の一九五〇年四月初旬に成立した「旧軍港市転換法」による。本巻の「せめぎあう「戦後復興」言説」は、平和港湾産業都市構想が、朝鮮戦争や海上特別警備隊の設置などの社会情勢に押されて、しだいに軍港論に変化していく様子を行政史料から描いている。

 こうした戦後史への目配りは、「一九六八年:エンタープライズ事件の再定置」を本巻に含めたことでも言える。この事件を佐世保市民がどう迎えたのかが論点の一つだが、それには古いエネルギー源とされた炭鉱が閉鎖され、そこに現れた原子力空母という位置関係が重要だとする。また戦勝国が敗戦国に襲い掛かるという「象徴的要因」も無視するべきではない、と指摘する。戦後政治史の中で、経済的要因や国際情勢と共に対米従属が抜けきれないという「病」が指摘されているが、それらを解明するにも「軍港都市」の戦後分析は重要であることを思った。

 そうした丁寧な分析を辿ってみると、このシリーズは近代都市・現代都市を分析していくうえで新しい波をつくったと高く評価してよいと思われる。


■軍港都市史研究 全巻構成


既刊
第T巻 舞鶴編〈坂根嘉弘編〉
本編では、舞鶴鎮守府設置により大きく変貌した舞鶴の政治・経済や社会を、地域の視点から解明するとともに、引揚者を受け入れた地域社会の諸相を読み解き、海上自衛隊と戦後舞鶴とのかかわりを究明する。

第U巻 景観編〈上杉和央編〉
本編では、地図や空中写真、統計資料を駆使しつつ、軍港都市(横須賀、呉、佐世保、舞鶴、大湊)の景観変遷をたどると同時に、近代から現代におよぶ軍港都市の空間的な諸様相、軍港都市の景観の行方に焦点をあてる。

第V巻 呉編〈河西英通編〉
本編では、「呉市から海軍を差し引いたら、何も残らない」(獅子文六『海軍随筆』)と言われた呉の地域社会の実相を多面的に描くとともに、軍港都市呉を中心とした瀬戸内空間がどのような歴史性をはらんでいたのか検討する。

第W巻 横須賀編〈上山和雄編〉
日本海軍で最初に設置された鎮守府を有し、呉と並ぶ最有力の軍港都市であった横須賀市、すなわち軍港都市研究の「本丸」に対し、各執筆者が横須賀の軍港都市としての共通性とその固有の性格を明らかにするという問題意識を共有しつつ、しかし、多様な角度から切り込んだ意欲的な集団研究。

第Y巻 要港部編〈坂根嘉弘編〉
本書では、まず要港や要港部の変遷と事例を説明し、ついで各章で大湊、竹敷、旅順、鎮海、馬公が扱われる。もう一つの特色は、関東州、朝鮮、台湾という外地に所在した要港が、軍港と植民地都市の二重性ゆえ持った特色が描かれていることである。軍港都市研究の事例を重ねた著者と、植民地研究で実績を重ねて来た著者の共同作業が成功して豊かな歴史像を提起している著作である。

第Z巻 国内・海外軍港編〈大豆生田稔編〉
本書は軍港都市史研究の最終巻で、各軍港都市の諸問題を取扱う「補遺」に位置づけられる。国内軍港編は、「海軍工廠の工場長の地位」、「海軍の災害対応」、「海軍志願兵制度」、「軍港都市財政」をテーマにした四編の論文であり、海外軍港編は仏・独・露三国の代表的軍港であるブレスト軍港・キール軍港・セヴァストポリ軍港の専門的通史である。



※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。