近代日本中国台湾航路の研究
松浦 章著

航路を制するものは世界を制す!
明治日本が汽船航路を開発していく道程を詳しく探ることにより、近代日本の海外発展史を描く。

本書の構成
序文
序説 近代東アジア海域における汽船航運史の課題 ―日本・中国・台湾を中心に―
緒論 清末中国の交通革命への始動 ―汽船航運をめぐって―
第1編 近代日本の中国航路と台湾航路
  第1章 清末中国と日本間の汽船定期航路 ―明治期日本最初の海外定期航路―
  第2章 英国ダグラス汽船会社の台湾航路について ―日本の台湾航路前史―
  第3章 1863〜1864年英商ダグラス汽船会社の台湾及び華南航運
  第4章 日本統治時代初期の台湾と日本間の汽船定期航路
第2編 清末中国内河汽船航路と日本汽船会社
  第1章 清末中国における大阪商船会社の長江汽船航運
  第2章 清末大東汽船会社の江南内河就航について
  第3章 日本郵船会社長江航路開行前史 ―清末麥邊洋行(McBain&Co.)長江行輪業―
  第4章 湖南汽船会社の湖南航路―清末中国内河航路と日本汽船―
終章 日清汽船会社による中国内河航路の統合
跋文
索引




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 松浦章著 汽船の時代と航路案内




ISBN4-7924-0588-2 C3022 (2005.6) A5 判 上製本 302頁 本体7600円

東アジア海運史研究のひろがり

関西大学文学部教授 藪田 貫

 経済成長の著しい昨今はどうか知らないが、数年前まで、中国国内を旅して驚いたのは、河川を運行する船舶の多さであった。一九九七年一〇月に、本書の著者松浦章氏らと同行した、連雲港を経て、淮安―揚州―鎮江―南京に至る四〇〇キロ余の道程には、幾筋もの運河が縦横に走り、船舶が、まさに輻輳していた。川がモノを運び、「水上交通」が生きているのである。水を流すだけの路となっている日本の川を見慣れている者は、ただ、眼を見張るばかりであった。と同時に、松浦氏の研究の現場を見たような気がした。実際、松浦氏はこのような「現役」の水上交通に魅せられ、その歴史的世界を開拓していったのである。

 故大庭脩氏の薫陶をうけ、漂着唐船を手がかりに近世の日中関係史研究に入っていった松浦氏は、その後、長崎に来る唐船の出発地中国の船舶事情、海運・貿易事情に分け入り、多くの成果を発表している。一九九五年には『中国の海賊』で中国沿海部の海運事情を探り、その後は、もっとも得意とする清代にテーマを絞り、『清代海外貿易史の研究』(二〇〇〇年)、『清代中国琉球貿易史の研究』(二〇〇三年)と、立て続けに大著を公刊している。それらが、東シナ海洋上を往復する帆船―近世日本では「鳥船」などと呼ばれた―に即した、連続した作品だとすれば、近著の『清代上海沙船航業史の研究』(二〇〇四年)は、視野を反転し、内陸部の水上交通を担った沙船に主題がある。漂着唐船を起点として、自在にひろがる松浦氏の研究の構図が見て取れるが、さらにそこにこの度、汽船が加わった。

 本書『近代日本中国台湾航路の研究』は、開港によって東アジア海運に大きな刺激をうけた日本が、中国(内陸河川もふくむ)・台湾に向け、どのように定期航路を開拓していったかを調べ上げたものである。北京の第一案档案館に通いつめて資料を博そうしてきた著者の姿勢は、本書にも貫かれている。

 日本史は、中国との交渉史なしには成り立たないが、そこには<日本>から見た交渉史とともに、<中国>から見た交渉史が交差する。松浦氏の一連の業績は、後者から見ることで近世日本史にインパクトを与え続けてきたが、本書はさらに、近代の日本史にも裨益することとなるだろう。近世―近代の日本史研究者に、ひろく迎えられることを願ってやまない。
 
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。