海外情報からみる東アジア
唐船風説書の世界
松浦 章著



十七〜十九世紀の東アジア世界の交流・交渉の実態を解き明かす



本書の構成

序 説 江戸時代唐船舶載の海外情報
第一章 近世東アジアの海外情報の実態
第二章 中国船がもたらした海外政治情報

第一編 明末清初における唐船が舶載した政治情報
第一章 明代海商と秀吉「入寇大明」の情報
第二章 清に通報された「島原の乱」の動静
第三章 東アジア世界を巡る「三藩の乱」の情報
第四章 康熙年間武昌兵変の日本伝聞

第二編 清朝中期における唐船のもたらした政治情報
第一章 康熙南巡と日本
第二章 乾隆南巡と唐船風説書
第三章 安永五年の唐船風説書
第四章 天保三年の唐船風説書

第三編 唐船が舶載した諸情報
第一章 清代沿海商船乗組員のもたらした日本情報
第二章 江戸時代の台湾風説書
第三章 清代台湾朱一貴の乱の日本伝聞
第四章 The Canton Registerに掲載された一八二三年長崎暴風雨
第五章 唐船が舶載した阿片戦争情報

第四編 『遐邇貫珍』に見る海外情報
第一章 『遐邇貫珍』の世界
第二章 『遐邇貫珍』に見るペリー日本来航   羅森『日本日記』前史
第三章 『遐邇貫珍』の描く近代東アジア世界
第四章 『遐邇貫珍』と幕末に伝えられた太平天国情報

結 論 江戸時代唐船舶載の海外情報の意義

◎索引




  ◎松浦 章(まつうら・あきら)……1947年奈良市生まれ 関西大学大学院文学研究科博士課程単位取得 現在、関西大学文学部教授・関西大学アジア文化交流センター長




 著者の関連書籍
 松浦章著 近代日本中国台湾航路の研究

 松浦章著 汽船の時代〈近代東アジア海域〉

 松浦章著 汽船の時代と航路案内




ISBN978-4-7924-0682-0 C3022 (2009.7) A5 判 上製本 506頁 本体9600円
十七〜十九世紀の東アジア世界の交流・交渉の実態を解き明かす

 江戸時代は「鎖国」時代と言われるが、周知のように徳川幕府は、オランダと中国との関係を、両国からの船が長崎に来航する形態により通航を維持していた。その他に、朝鮮王国との関係は対馬藩の宗家を通じて、清朝中国との関係を持つ琉球とは薩摩藩の島津家により連繋していたように、近隣諸国との関係が維持されていた。これらの通航は近隣諸国や世界の情報を収集していたことが「風説書」などの呼称で残されていることから知られる。即ち徳川幕府は近隣諸国のみならず世界の動静にも無関心ではなかったことが知られる。そこで本書は、外国情報、とりわけ中国の動勢に関する情報に焦点をあて、次のような構成を企図して考察した。

 第一編においては東アジア世界に関係した政治問題を取り扱い、豊臣秀吉の朝鮮侵攻と明朝中国との関係、日本の島原の乱と朝鮮国と清との関係、清の三藩の乱に関する朝鮮及び日本の関心、清康煕年間の兵変が日本につたわった内容について分析した。

 第二編では、康煕帝・乾隆帝の南巡の情報、また王倫の反乱、民衆反乱の情報が日本に伝わっていたことを述べ、第三編においては、中国船の乗員やアヘン戦争に関する情報をもたらした船主に焦点をあてて考察した。

 第四編において、一八五三年から香港で刊行された中文雑誌『遐邇貫珍』がニュース性として、当時どのように価値があったかを日本に視点をおいて論述したものである。江戸時代の日本は「鎖国」を行っていたために、国際的に閉鎖社会との印象をこれまで与えられてきたが、さまざまな情報が海を渡り中国から日本へもたらされていたのである。

 現在、関西大学は、文部科学省グローバルCOE「文化交渉学教育研究拠点」プログラムに取り組んでいるが、その課題は東アジア世界を中心とする文化交渉の問題である。本書が、この文化交渉学の形成に関する有効的な指針となれば幸甚である。諸賢の御批正を請う次第である。
 (本書序文より)
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。