■新編 中世高野山史の研究 | |||||
山陰加春夫著 | |||||
高野山金剛峯寺が日本最大級の正統派寺院にまで発展しえた基本的な要因を封建領主的営為に求め、そのありようを「文書・帳簿保管システムの構築と転換」「膝下諸荘園に対する諸政策の立案・実施」の2つの側面から解き明かす。 ■本書の構成 序 河音能平/例言/元版要旨/序論 第T部 文書・帳簿保管システムの構築と転換 第一章 日本中世の寺院における文書・帳簿群の保管と機能/第二章 十四〜十五世紀の高野山における訴訟関係文書群の保管について 第U部 膝下諸荘園の「再建」施策 第三章 南北朝内乱期の領主と農民/第四章 金剛峯寺衆徒とその生家 第V部 中世金剛峯寺教団組織小考 第五章 金剛峯寺と膝下荘園荘官層/第六章 金剛峯寺五番衆について/第七章 中世金剛峯寺衆徒の寺院生活―修正会・不断経の位置―/史料紹介1 「交衆定式并びに掟文」 附 録 第八章 高野の聖たち―高野山一心院谷の場合―/第九章 永享五年の「高野動乱」について―検断法上の意義―/史料紹介2 永享五年「高野動乱」の新史料 研究余滴 一 鎌倉時代金剛峯寺の森林保護政策について/二 高野山における「怨親平等」観念の相承 成稿一覧/あとがき/増補版あとがき/索引 著者の関連書籍 山陰加春夫著 中世寺院と「悪党」 山陰加春夫編 きのくに荘園の世界 上・下 |
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ISBN978-4-7924-0945-6 C3021 (2011.7) A5判 上製本 486頁 本体11,000円 | |||||
山陰加春夫氏『新編中世 高野山史の研究』刊行によせて |
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天理大学教授 吉井敏幸 |
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本書『新編中世高野山史の研究』は、私の畏友山陰加春夫氏が一九九七年に刊行された『中世高野山史の研究』を増補した論文集である。 氏は和歌山県高野山出身の歴史学者で、大阪市立大学・同大学院修士課程で故河音能平先生のもとで研究を重ね、さらに出身の高野山大学大学院博士課程に進み、高野山大学の教員になり、昨年三月に同大学を退職された。大学の学部学生の時から中世高野山史の研究に邁進し、その成果が『中世高野山史の研究』と『中世寺院と「悪党」』(二〇〇六年清文堂出版刊)である。そのうち『中世高野山史の研究』は、同氏が一九七六年から九六年まで出された論文を編成したものであり、今回の『新編中世高野山史の研究』は、それ以後の数本の論文・小文などを加えたものである。 周知のように、高野山金剛峯寺は空海が開創し、今日では真言宗の総本山として最も古い歴史と格式、権威と勢力を持つ寺院である。その歴史は開創以来発展の歴史と見られがちである。しかし同氏の研究によると、高野山の歴史は決して平板な発展史ではなかった。開創まもなくの高野山は中央権門寺院の別所的な寺院であり、場合によっては廃寺となる危険性もあった。それが今日のような発展した高野山になっていく鍵は、中世の高野山の歴史の中にあった。山陰氏は中世高野山史研究の意義を以上のように述べている。恐らくこの結論は、当初からではなく、高野山史研究を続けていく過程の中で同氏が気づいたことであり、あらためてその視点でみると、それがそのまま実証されたのである。同氏は、そのような論理とともに、高野山の歴史を日本中世の政治史・経済史等のなかに正しく位置づける作業もされている。 以上のような同氏の研究内容は、先ず社会経済史の研究で歴史の基盤を理解し、その後に政治的・文化的な歴史研究をすべきである、とする河音能平先生の意図をそのまま受けている。本書は表題から寺院史研究書と見られるが、実際は社会経済史・政治史の観点が極めて強いスケールの大きな内容になっているが、それはそのような指導の結果である。 中世高野山史の研究は、古くは江頭恒治『高野山領荘園の研究』など、社会経済史・仏教史・民俗学など様々な研究成果があり、そのうち中世史だけでも多くの研究者が取り組んだ厖大な研究成果がある。本書はその厖大な研究成果を丁寧に渉猟し、評価しつつ、独自の論を展開している。また高野山関係史料も厖大なものであるが、その一つ一つを実に丹念に解釈分析している。 一つの研究テーマを一生追い続けることは、ある意味では研究論文を量産しやすく、視野が狭くなることもある。しかし同氏の研究は、絶えず日本全体の歴史の流れや、研究成果を汲み上げ、それらの研究に見事に目配りをしつつ、独自の論理を展開している。 私は、河音能平先生のもと、同氏の大学・大学院修士課程で一年先輩というよりも無二の親友として、ともに歴史学を学んできた。そのなかでいつも思うのは、氏は誠実で真摯ななかにもユーモアと余裕があることである。その彼の性格がそのまま本書の各論文や序論・あとがきに表れている。周囲の研究者や研究成果に対する気配りと、それでも意志を通す強さ、本作りの丁寧さである。 同氏の論文は、徹底した史料上の裏付けに固められた論理からなっている。確かな実証に裏付けられた研究は、いつまでも生き続けるのであるが、本書はまさにそうした数少ない研究成果の一つであろう。研究論文集は、なかなか売れないのが実状である。そのなかで本書が早々と売り切れ、学界の要望に答えて今回増補して刊行されるということは、それだけ内容が優れているからである。本書は、高野山史研究という狭い分野だけではなく、歴史学研究のなかでも基本文献として息長く存続し続けていくことは間違いない。単に高野山史を研究する研究者だけではなく、一般の中世史研究者、さらには高野山に関心を持つ広く一般の人々にも必須の本である。日本中世史や中世社会経済史、政治史を研究する研究者も、本書から多くを学ぶことができよう。 |
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※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。 |