連合関係

日本語学講座 第4巻

今野真二著


実現し、顕在化している一つの語と潜在化している複数の語との関係とは?「連合関係」というみかたを導入することで、言語に関わる知見を多角的、多面的に引き出す。


序 章 連合関係
    夏目漱石『それから』 高橋五郎『[[漢英/対照]いろは辞典]』 『大成正字通』

第一章 複合語の形成と連合関係
    「ナメ〜」という語形をめぐって ツバヒラコ 「ヤマ〜」という語形をめぐって 野坂本賦物集の「山何」

第二章 連合関係からみた複合語
    観智院本『類聚名義抄』の和訓 @「オホ(大)〜」と「コ(小)〜」と 観智院本『類聚名義抄』の和訓 A「キカム」という和訓をめぐって 『色葉字類抄』畳字部所収見出し項目 疊字部所収見出し項目の「音読/訓読」ということをめぐって 連合関係からみた畳字部所収見出し項目 上字下字の字義が類義的である漢字列 上字下字の字義が反義的である漢字列

第三章 非辞書体資料における連合関係
  第一節 『風土記』にみられる連合関係
    聴覚イメージの共通性による連合関係 語構成要素に基づく連合関係 色目(物産品目)の列挙
  第二節 『万葉集』にみられる連合関係
    聴覚イメージの共通性による連合関係 句の反復 いつ藻の花のいつもいつも つらつら椿つらつらに 植物名を核とした表現構成 地名を核とした表現構成 別語による聴覚イメージの共通 連合関係からみた序詞 繰り返し寄せる波/いつもあなたを想っている 間断なく降る雨 対句表現における連合関係 朝雲にたづは乱れ夕霧にかはづは騒く さまざまな連合関係
  第三節 連歌にみられる連合関係
    永正七年和漢聯句 付合(つけあい) 一条兼良『連珠合璧集』

第四章 辞書体資料にみられる連合関係
  第一節 『色葉字類抄』を資料として
    さまざまな連合関係
  第二節 「ことばのやわらげ」を資料として
    「ことばのやわらげ」の形式 漢語と漢語との結びつき 漢語と和語との結びつき
  第三節 明治期の辞書体資料から窺われる連合関係
    『英華和譯字典』の和語譯語 英和辞書の譯語 譯語にみられる漢語 高橋五郎『[和漢/雅俗]いろは辞典』

第五章 北原白秋の心的辞書(mental lexicon)
    文学作品の「練度」 和歌の草案―『実隆公記』紙背文書を例として― 歌集『白南風』について 書き入れの状況 語を単位とする連合関係 語を超えた単位における連合関係
 



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ISBN978-4-7924-0950-0 C3381 (2011.10) A5判 上製本 242頁 本体3,500円
  連合関係
 実現している文に配置されている語は、実現しているという点から、顕在化しているといえるのに対して、実現している一つ一つの語の背後に、実現しなかった、つまり潜在化している語が存在するとみた時に、その潜在化している(複数の)語と顕在化している語とは「連合関係」を形成していることになる。F.de Saussure は「与えられた語に対して心が結びつけるさまざまな語との関係全体は、仮想的なグループをつくる」とみていたと思われる。
 「心が結びつける」という表現や「仮想的なグループ」というとらえかたは、現代においてはむしろ好まれないかもしれない。しかし、そこにこそ「類義語」というとらえかたとの大きな異なりがあり、「連合関係」というとらえかたの汎用性があると考える。
 谷川俊太郎の『ことばあそびうた また』(一九八一年福音館書店刊)に「たね」と題した「ねたね うたたね ゆめみたね ひだねきえたね しゃくのたね またね あしたね つきよだね なたね まいたね めがでたね」という詩が収められている。改めていうまでもなく、「たね」という文字列を含むことばを並べたものである。「連合関係」に基づく詩といってもよい。
 『古今和歌集』巻第十は「物名」と題して物の名を詠み込んだ歌を集めている。「あしひきの山たちはなれ行く雲の宿りさだめぬ世にこそ有けれ」(四三〇番歌)は「タチバナ(橘)」という語を詠み込んでいるが、できあがった歌の側からいえば、「山たちはなれ行く雲の」という句の中に「たちはな」という文字列を見出し、「タチバナ」という語を見出すことになる。そこには「おや、そうか」という心の働きがありそうで、そうした人間の認知ということと「連合関係」は結びついていると考える。
 本書がそうしたことをくまなく描きだすところまではいっていないという自覚はある。第五章には「北原白秋の心的辞書(mental lexicon)」と題して、白秋の推敲の分析を試みた。「連合関係」は、こうした「詩的言語」の分析にも有効な概念と考えられ、いつの日か「連合関係」という視点から「詩的言語」を分析してみたいと考えている。     (今野真二)


※上記のデータはいずれも本書刊行時のものです。