尾張藩社会の総合研究 《第五篇》
岸野俊彦編


豊かな社会と文化の交流を復元する。
シリーズ第五弾。


■本書の構成

 序 章 五篇編纂の意義と課題名古屋芸術大学 岸野俊彦

第一部 尾張藩社会の文化展開
 第一章 近世名古屋と信州松本の文化交流…
名古屋芸術大学 岸野俊彦
 第二章 『尾張名所図会』諸本考…
元愛知文教大学副学長 岸 雅裕
 第三章 金春八左衛門安住と藤田流の流儀筋入組一件 
尾張藩の能楽について …愛知県史編さん室 清水禎子
 第四章 天保期の尾張藩における裏千家茶道の普及とその影響…
愛知学院大学 水野荘平

第二部 幕藩社会と尾張藩社会
 第五章 尾張家年寄の官位叙任過程と公武関係…
徳川林政史研究所 白根孝胤
 第六章 尾張藩京都屋敷とその役職者たち…
愛知県史調査協力員 後藤真一
 第七章 千村平右衛門家の名古屋藩からの独立運動…
正眼短期大学 鈴木重喜
 第八章 山城国八幡正法寺と尾張藩 
相応院と竹腰正信との関係から 宇治市歴史資料館 坪内淳仁
 第九章 尾張藩主参勤(覲)交代とその変遷…
一宮市尾西歴史民俗資料館 宮川充史

第三部 尾張藩社会の都市と農山村
 第十章 尾張藩財政の窮迫 
天保の上ケ金と鬮引き調達金 …愛知県史特別調査委員 杉本精宏
 第十一章 尾張藩における武家奉公人の供給構造と口入・請負商人 
日用頭佐和屋服部家の事例から …岐阜県立益田清風高等学校 小川晃太郎
 第十二章 調達金をめぐる豪農と村・地域 
中島郡苅安賀村関戸藤右衛門家にみる …一宮市文化財保護審議会 小川一朗
 第十三章 尾張藩における農方御用達について 
海東郡佐屋村黒宮門左衛門家の場合 …愛西市教育委員会 石田泰弘
 第十四章 近世後期山村氏の財政政策と木曽支配…
名古屋市立向陽高等学校 林 淳一




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ISBN978-4-7924-0976-0 C3021 (2012.11) A5判 上製本 460頁 本体9500円

   「生活態」藩社会として把握しつくす


東京大学名誉教授 宮地正人

 『尾張藩社会の総合研究』第五篇が今般刊行されることをしらされ、よろこぶと同時に正直いって驚いている。このような学術論文集が五篇まで同一の書店から継続して刊行されることは、とりあえず清文堂に財政的迷惑はかけていないことを意味しているのだろう。それは旧式な地方史・藩政史研究という狭い枠組みを打ち破り、「藩社会」というキーコンセプトを核に、尾張藩の存在とその変化を、幾層にも重なり合うディメンジョンとしてとらえ直し、また他者とのかかわり合いの中での「生活態」藩社会として把握しつくそうという編者の岸野氏はじめ研究会メンバー全員の方法論が豊かな実証を伴い、尾張藩社会という窓口からつかみとったものが、とりもなおさず日本の近世国家と社会の凝縮体になっているからだと思われる。近世史研究の革新を志す人々が必ず読まざるをえないものになってきているのである。

 更に今般の第五篇は、最近次々と刊行された極めて良質な史料集である『新修名古屋市史資料編 近世一』(二〇〇七年)、『近世二』(二〇一〇年)、『近世三』(二〇一一年)、『愛知県史資料編 近世2』(二〇〇六年)、『近世3』(二〇一一年)、『近世(学芸)』(二〇一二年)の成果と調査過程での史料情報を踏まえた充実したものになっている。

 内容総てを紹介できないのは残念だが、「尾張藩社会の文化展開」では、名古屋の書肆活動が藩域を超えた信州松本の書肆との交流の中で明らかにされ、「幕藩社会と尾張藩社会」では尾張藩万石家老の諸大夫成りの制度化が、幕府の諸大名統制展開という全国的展開の中に位置づけられ、「尾張藩社会の都市と農山村」では、全国各藩共通の問題武家奉公人に関し、尾張藩におけるその供給構造と口入・請負商人の実態が解明されている。一つ一つの論文の中に近世国家と社会存在の「普遍性」が埋め込まれているのである。私は本書が広く読まれることと同時に第一〜四篇も活用されることを期待したい。近世史研究の見直しと革新は焦眉の課題だと痛感しているからである。 
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。