近世の東海道
本多隆成著


近年、格段に進む交通史研究の成果をふまえた正確な概説書。宿場の景観、宿役人や本陣、街道の諸施設、また自然災害の問題も取り上げる、近世東海道理解の絶好の書。



■本書の構成

 口絵
 はじめに

一 近世東海道の前提
 1 古代の東海道/2 中世の東海道/3 戦国大名の伝馬制度/4 豊臣政権下の交通制度
二 近世宿駅制度の成立過程
 1 「東海道五十三次」の成立/2 元和・寛永期の交通政策/3 京街道四宿と「五十七次」/4 元禄・正徳・享保期の宿駅改革
三 宿と街道の諸相
 1 宿場の成り立ち/2 本陣とその役割/3 街道の諸施設/4 自然災害と東海道
四 助郷制の成立と展開
 1 寛永の助馬令と寛文期の意義/2 元禄七年の助郷改革/3 享保十年の助郷改革/4 助郷の拡大と病弊
五 東海道を旅した人々
 1 学者・文化人の旅/2 外国人の旅/3 女性の旅/4 庶民の旅

 参考文献/あとがき



◎本多隆成(ほんだ たかしげ)……静岡大学名誉教授



  本書の関連書籍
  本多隆成著 近世東海地域史研究

  本多隆成編 近世静岡の研究

  静岡県地域史研究会編 戦国期静岡の研究

  静岡県地域史研究会編 東海道交通史の研究




ISBN978-4-7924-1018-6 C3021 (2014.8) 四六判 上製本 口絵4頁・本文314頁 本体2,500円
近世東海道理解の絶好の書
富山大学人間発達科学部教授 深井甚三
 本書の著者は永い間、静岡大学に勤められ、近世史のとりわけ初期の研究に取り組まれてきた。その主要な研究対象は領主支配、農村史の分野である。しかし、『袋井市史』など地元の市町村の自治体史編さんにも数多く取り組まれていた。この結果、東海道の宿場町とその周辺村の助郷を務めた村々の歴史を研究対象にしたうえに、近世交通の中でも東海道の交通史に関しての知見を深めておられた。著者はこの成果をもとに東海道を基軸とした地域史の本『街道の日本史 東海道と伊勢湾』(吉川弘文館)を編さんするとともに、東海道を日本橋から京都まで全行程歩いてまとめた東海道の案内書『歴史の旅 東海道を歩く』(同前)も出版されていた。
 本書はこうした成果をもとに刊行された。はしがきによると、東海道に関する本は多いものの、東海道の全体に及ぶ学問的な裏付けのある概説書はない。ところが東海道の研究はめざましく発展しているので、この成果をもとに史料的根拠も明示しながら正確な東海道全体に及ぶ概説書をまとめることにしたという。
 実際に本書は東海道のこれまでの多くの研究を引用しながらも、重要な史料も数多く取り上げて検討しており、著者の見解も明確に出された著作となっている。しかもこれらの見解には研究者も参考になるものが多い。また、内容も平易にまとめられているので、一般の読者にとっても読みやすい本となっている。
 本書の構成をみると、これまでの東海道研究の中心課題となっていた、宿駅制とこれを補う助郷制の東海道をめぐる成立とその展開に大きく紙面をさいている。しかしながら、本書ではこの宿駅制の前提となる古代以来の東海道をめぐる問題に加え、宿と街道の諸相ということで宿場の景観、宿役人や本陣、街道の諸施設、また自然災害の問題も取り上げている。そして、さらには本書の最後に、一般読者の方にも関心が大きいと考えられる旅について、東海道を旅した人々ということで、学者・文化人、外国人、女性の旅、そして庶民の旅についても紹介している。
 以上の内容の本書は、市民の方々に加え、学生や、さらには交通史研究者以外の研究者の人々にも近世東海道を理解してもらうためにお読みいただきたい書と考える。また、前著『歴史の旅 東海道を歩く』を読まれた方には、同書で扱われなかった京街道部分の現況について本書で付加、解説されているので、是非この部分も見逃さずにお読みいただきたい。
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。