東アジアの都市構造と集団性
伝統都市から近代都市へ
 井上 徹・仁木 宏・松浦恆雄 編
 大阪市立大学文学研究科叢書第9巻


東アジアの都市が前近代から近現代にかけてどのように発展してきたかを把握する比較史的研究の方法を確立する。




■本書の構成

  第1部 都市社会の構造と変容

都市社会史の方法 
―日本近世都市史研究の展開と大坂― …………塚田 孝(大阪市立大学)
  はじめに/一 伝統都市と都市社会構造/二 都市大阪の歴史展開(1城下町大坂の成立 2都市大坂の分節構造 3近代都市大阪へ)/おわりに


一六世紀以降の長江デルタ地域の経済的社会的統合と発展…………唐 力行
(上海師範大学)/王 標(大阪市立大学)
  はじめに/一 江南から長江デルタへ――長江デルタ地域の沿革と立地特性/二 蘇州時代――内部統合の二つのタイプ(1周縁から中心への統合――徽州と蘇州の事例 2中心地の統合と拡散作用――蘇州盛沢の事例)/三 近代における長江デルタの更なる統合と拡大――南通モデルの意義/四 地域の一体化――改革開放以来の長江デルタの統合と発展/むすび

清代、辺境都市打箭爐の形成と発展…………柳 静我
(鳥取大学)
  はじめに/一 打箭爐の管理体制/二 「辺茶」貿易と辺境都市打箭爐の拡大/三 陝西商人の役割/四 鍋莊の存在/おわりに


  第2部 都市の文化的特質

近世後期大坂の砂持と浄瑠璃文化…………神田由築
(お茶の水女子大学)
  はじめに/一 安治川の大浚い(1祭礼化する砂持 2砂持に関わる人々 3大浚いと御救い 4町々の負担)/二 寄進の砂持(1町触の変遷 2「つくりもの」と「そろい」)/三 浄瑠璃と砂持(1浄瑠璃抜文句 2川浚いの砂持 3寺社への寄進砂持)/おわりに


朝鮮「道統」形成の一側面
 ―『東儒師友録』を中心に― …………野崎充彦(大阪市立大学)
  はじめに/一 朝鮮儒学「道統」論概観/二 朴世采と『東儒師友録』/三 朝鮮儒統の起源/四 掌教人なるものの存在と役割/おわりに


朝鮮時代における都市の位階と都市文化の拡散…………高 東煥
(韓国科学技術院)/金子祐樹(大阪市立大学)
  はじめに/一 都市の位階と地方都市の構造(1行政編制と都市の位階 2地方都市における邑内の構造)/二 漢陽の都市文化と都市文化の拡散(1閩巷人と漢陽の都市文化 2都市文化の拡散)/おわりに

一九世紀前半期、清代重慶城の債務訴訟における「証拠」問題…………邱 澎生
(香港中文大学)/辻 高広(大阪市立大学)
  前言/一 重慶城の経済と社会/二 重慶商人の債務訴訟における証拠問題/三 初歩的観察と比較

  第3部 近代都市の創生

近代天津の貿易とその後背地 
―羊毛輸出を中心に― …………吉澤誠一郎(東京大学)
  はじめに/一 羊毛貿易の発展/二 黄河上流地域における羊毛貿易(1西寧とその附近の羊毛交易 2羊毛交易における代理人と仲介者)/三 羊毛工業の展開/小結


明治期大阪の有志的町内団体 
―内安堂寺町二丁目を事例として― …………北嶋奈緒子(大阪市立大学)
  はじめに/一 内安堂寺町二丁目の社会構造と町内組織(1内安堂寺町二丁目の概要 2居住者の階層と職業構成 3内安堂寺町二丁目の町内組織)/二 初期誠友会の活動(1活動の概要 2会員構成 3愛親会への「加盟」協議)/おわりに


近代上海住宅賃貸借法文化の形成と拡散…………孫 慧敏
(台湾・中央研究院)/阿部由美子(日本学術振興会)
  はじめに/一 規範化される賃貸住宅住民/二 法律に訴える――受動的から主動的になっていった上海の賃貸住宅住民層/三 賃貸住宅居住者を主体とする賃貸住宅法規――上海から全国へ/結論

北東アジアにおける植民地都市の近代性をめぐって…………橋谷 弘
(東京経済大学)
  一 近代都市としての北東アジア植民地都市/二 両大戦間期の北東アジア都市の膨張/三 都市の消費文化/四 新式住宅・集合住宅の登場/五 都市計画の手法/六 北東アジア現代都市の諸問題


  問題提起

伝統都市をめぐる議論 
―問題提起にかえて― …………井上 徹(大阪市立大学)

中国近代経済史の立場から見る東アジアの都市…………辻 高広
(大阪市立大学)
  はじめに/一 自治をめぐる問題/二 都市と周辺部との関係/三 移住と都市化の問題

東アジア都市の社会構造・自治・文化形成の比較史に向けて
 ―日本近世~近代都市史の立場から― …………佐賀 朝(大阪市立大学)
  はじめに/一 都市社会構造分析と「都市自治」/二 芸能・文化における一八~一九世紀の位置/三 伝統都市から近代都市・現代都市へ(1伝統都市と西欧化 2都市空間の拡張と社会的都市化 3近代都市の共同組織と「自治」)/おわりに







ISBN978-4-7924-1053-7 C3020 (2016.3) A5判 上製本 326頁 本体8,200円



 本書は、国際シンポジウム「東アジア都市における集団とネットワーク ―伝統都市から近現代都市への文化的転回―」をもとに編まれた論文集である。大阪市立大学大学院文学研究科では、日本学術振興会「頭脳循環を加速する若手研究者戦略的海外派遣プログラム」に採択され、先端的な研究活動を遂行した。

 「頭脳循環」とは、一つには、優秀な若手研究者を長期に海外の卓越した研究機関に派遣し、研鑽を積ませるとともに、将来、国際的な研究交流を中核的に担う人材を養成することを目標としている。またもう一つには、担当研究者が中心となって、海外の協力機関とともに、国際共同研究を遂行し、顕著な成果をあげることを目的としている。

 私たちの「頭脳循環」では、①上海師範大学中国近代社会研究センター、②台湾中央研究院近代史研究所、③釜山大学校韓国民族文化研究所、④ソウル市立大学校都市社会学科を協力機関として、若手研究者を派遣するとともに、共同研究を推進してきた。冒頭に記した国際シンポジウムはその成果を総括するためのもので、大阪市立大学にて開催した。シンポジウムでは、記念講演の後、分科会にわかれての研究報告がなされ、最後に全体会が開催された。

 本書を編むにあたって、全体的なテーマの統合性を高めるとともに、日中韓の比較研究をより実効性のあるものとするため、講演・報告いただいた方に執筆を依頼するとともに、別途1名の方に御寄稿いただいた。さらに、本書の意義を詳しく説明するとともに、論文解題としての性格もあわせもつ「問題提起」を巻末に掲載した。

 東アジア諸都市の歴史的段階の枠組みを念頭において、本書の各論稿でアジア海域世界の動向を見定めた。東アジアの都市が前近代から近現代にかけてどのように発展してきたかを把握する比較史的研究の方法を確立したいと望むものである。



大阪市立大学文学研究科叢書
第1巻 橋爪紳也責任編集・アジア都市文化学の可能性

第2巻 都市の異文化交流

第3巻 井上徹 塚田孝編・東アジア近世都市における社会的結合

第4巻 近代大阪と都市文化

第5巻 都市文化理論の構築に向けて

第6巻 文化遺産と都市文化政策

第7巻 都市の歴史的形成と文化創造力

第8巻 塚田 孝・佐賀 朝・八木 滋編 近世身分社会の比較史

第10巻 大場茂明・大黒俊二・草生久嗣編 文化接触のコンテクストとコンフリクト

第11巻 佐金 武・佐伯大輔・高梨友宏編 ユーモア解体新書

第12巻 塚田 孝・佐賀 朝・渡辺健哉・上野雅由樹編 周縁的社会集団と近代

 
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。