文化接触のコンテクストとコンフリクト
環境・生活圏・都市
大場茂明・大黒俊二・草生久嗣 編
大阪市立大学文学研究科叢書第10巻


都市にあらわれる文化の接触と対立。ドイツ・ベルリンや東京の事例をもとに、「合同生活圏」という概念から希望をみいだす。




■本書の構成

はじめに……草生久嗣

第I部 都市と森林

古い都市と森林――
持続可能性の隠された諸起源……ヨアヒム・ラートカウ/海老根剛訳


第II部 「合同生活圏」――共生か敵対か?

解題……海老根剛

「犠牲のシステム」を超えるコ・プレゼンスは可能か?――
原発事故被災者と支援者の間……吉原直樹
  はじめに 1.「合同生活圏」をめぐる三つの争点 2.「犠牲のシステム」へ/から 3.まなざされるコ・プレゼンス 4.コ・プレゼンスから:いっそうの経験的地層へ おわりに

原子力施設立地をめぐる対抗的“合同生活圏”の形成――
ドイツの事例から……青木聡子
  
1.はじめに 2.ドイツにおける原子力施設反対運動の概要と特徴 3.ヴィール闘争における“抵抗の論理” 4.ゴアレーベン闘争における“抵抗の論理” 5.まとめにかえて――対抗的“合同生活圏”の今日的意義

見えない「戦闘地帯(Kampfzone)」――
都市の社会的弱者の静かなる排除……菅 豊
  1.はじめに――協働的統治の隆盛 2.アジール(Asyl)としての隅田川 3.排除されるホームレス 4.監視員としてのベンチ 5.河畔に溢れる排除装置 6.表の非情と裏の有情 7.協働的なホームレスの排除 8.結語


第III部 都市におけるセグリゲーション

解題:舞台・ベルリン――変転するメトロポリス……大場茂明

公共空間における都市社会……ヴォルフガング・カシューバ/大場茂明訳
  
1.ベルリンにおける公共空間の「文化化」 2.共通の場からアイデンティティの再生へ 3.今後の課題

移民が語る都市空間――
想像界と場所について……森 明子
  
1.はじめに――なぜ移民が語る都市空間か? 2.いくつかの議論――場所・空間の上昇 3.叙述 4. 結びに代えて――トランスナショナルな都市の場所について

嫌われた住宅地の社会史――
ブルーノ・タウト設計「森のジードルング」……北村昌史
  
はじめに 1.ジードルング建設の歴史的背景 2.馬蹄形ジードルングの祭り 3.第一回フィシュタールの祭り(1929年) 4.1930~1932年のフィシュタールの祭り おわりに


第IV部 文化接触のコンテクストとコンフリクト――環境・生活圏・都市をめぐって

総括パネルディスカッション
(司会 大場茂明 大黒俊二 パネリスト 海老根剛 ヴォルフガング・カシューバ ヨアヒム・ラートカウ)

「合同生活圏」をめぐって――「おわりに」にかえて……大黒俊二




ISBN978-4-7924-1092-6 C3320 (2018.8) A5判 上製本 254頁 本体6,500円
 
     「合同生活圏」から世界をみなおす


 現在、世界の諸地域では、グローバリゼーションの加速化にともない、トランスナショナルな人口移動が継続して生じている。その結果、地域における人々の生活文化は多彩なモザイクの体をなしており、我が国も含め諸国・諸地域での対応が模索されている。とくに地域間での異文化との接触面を多数擁するEU地域において、多文化共生は長らく理想とされながらも、頻発する確執への未だ解決への回路は見いだされておらず、市民の生活環境に直結する課題は尽きない。

 本書は、文化的性格を異にするEU諸地域と我が国に、等しく存在するこうした現在的問題を21世紀における人類的課題として見すえた大阪市立大学国際学術シンポジウム「文化接触のコンテクストとコンフリクト――EU諸地域における環境・生活圏・都市」において発表された講演・報告を中心に掲載している。

 本書所収の諸報告や討論をみてもわかるように、このシンポジウムを貫くキーワードは「合同生活圏」である。シンポジウムを企画した編者たちが当初この言葉で漠然と思い描いていたイメージとは、おもに都市内部で、ある場合は開発によって人工的に作られ、ある場合は住民の日常生活の中から半ば自然発生的に生まれる固有の性格やアイデンティティを有している地域である。これに対して、報告者諸氏は、各人各様にこの模糊たる概念に具体的な意味内容を加えるべく努力し、その結果として「合同生活圏」は刺激的で内容豊かな用語に生まれ変わった。

 第Ⅰ・Ⅱ部では、「合同生活圏」の合同性を調和的な共存としてではなく、むしろ葛藤と不和によって定義されるものとして考える観点から困難な共生の可能性をめぐる問いを提起している。第Ⅲ部では、都市社会そのものが如何にコンテクストの異動と、それにともなうコンフリクトの生起・闘争・交渉とに満ちたものであるのか、ベルリンを舞台とする三篇の刺激的な論考が鮮やかに描き出している。実体概念ではなく発見的概念としての「合同生活圏」からみた世界を是非、体験していただきたい。  (編者)



大阪市立大学文学研究科叢書
第1巻 橋爪紳也責任編集・アジア都市文化学の可能性

第2巻 都市の異文化交流

第3巻 井上徹 塚田孝編・東アジア近世都市における社会的結合


第4巻 近代大阪と都市文化

第5巻 都市文化理論の構築に向けて

第6巻 文化遺産と都市文化政策

第7巻 都市の歴史的形成と文化創造力

第8巻 塚田 孝・佐賀 朝・八木 滋編 近世身分社会の比較史

第9巻 井上 徹・仁木 宏・松浦恆雄編 東アジアの都市構造と集団性

第11巻 佐金 武・佐伯大輔・高梨友宏編 ユーモア解体新書

第12巻 塚田 孝・佐賀 朝・渡辺健哉・上野雅由樹編 周縁的社会集団と近代


 
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。