都市の歴史的形成と文化創造力
大阪市立大学文学研究科叢書第7巻
大阪市立大学都市文化研究センター編


グローバル化のなかで都市とは? 国際交流の影響のもとで、アジア海域の諸地域の都市がどのような特色ある文化を形成し、当該地域や国家のなかでいかにその文化創造力を発揮したのかをさぐる。


■本書の構成

序章 都市文化の歴史的段階をめぐって……井上 徹

  第1部 伝統都市の形成と変容

第1章 中世における「都市文化」と京都……仁木 宏
第2章 中世東国の在地領主と首都・京都
――宇都宮氏を事例として……高橋 修
第3章 北宋中期両浙路における城鎮の研究
――商税・戸数・空間分布に基づく考察……呉 末弟・馬 峰燕(平田茂樹監訳・王標翻訳)
第4章 イギリス東インド会社「マカッサル商館文書」(1613−67年)の読み方……早瀬晋三
第5章 中国近代都市の社会変遷と文化再造……吉澤誠一郎
■19世紀以降の二度のグローバリゼーション……野村親義

  第2部 グローバリゼーションと現代都市

第6章 危機の時代のグローバル・シティ
――金融危機から社会問題まで……サスキア・サッセン(谷 富夫訳)
第7章 途上国都市の変容とホームレス
――マニラの場合……青木秀男
第8章 通過点としてのマニラ
――韓国人学生、フィリピン人船員、そして若年女性……高畑 幸
第9章 再不安定化する都市部落の若年層……妻木進吾
第10 章 辺境からのグローバル化
――サラワク先住民のモビリティと地方都市社会の変容……祖田亮次


ISBN978-4-7924-0942-5 C3020 (2011.3)  A5 判  上製本 302頁 本体6,500円

刊行にあたって

 大阪市立大学重点研究プログラム「アジア海域世界における都市の文化力に関する学際的研究」では、発足後、個別プロジェクト、比較都市文化史研究会、シンポジウム、国際学術交流などの事業を実施し、国際シンポジウム「往来する都市文化―《断片》から探るアジアのネットワーク」を開催した。次年度の国際シンポジウムは「都市の歴史的形成と文化創造力」を共通タイトルとして、それまでの研究成果を集大成した。

 第2年度の国際シンポジウムの特色は、本重点研究が掲げる都市発展に関わる三つの歴史的段階を検証し、都市がもつ文化創造力を具体的に解き明かそうとした。都市発展の三つの歴史的段階とは、第1段階=都市文化の形成と変容の段階(16〜17世紀)、第2段階=都市文化の成熟の段階(17〜19世紀)、第3段階=グローバル化のなかでの都市文化の段階(19世紀〜現代)である。従来のアジア海域世界に関する研究は、海域をめぐるヒトやモノの移動、様々な文化交流について顕著な成果をあげつつあるが、それらの変動的要素がどのように各地域・国そして都市に影響を及ぼし、内在化されていったのかは十分に検証されていないところである。そこで、本シンポジウムでは、国際交流の影響のもとで諸地域の都市がどのような特色ある文化を形成し、当該地域や国家のなかでいかにその文化創造力を発揮したのかを議論した。議論の軸は次の二点である。第1に、都市の文化力に関する包括的な議論である。伝統的な都市文化はいかに形成され、成熟したのか、そして都市がもつ文化の力はどのように発揮されたのか、こうした問題を、都市発展の歴史的段階を踏まえて議論することである。第2に、大阪を焦点として、中国・東南アジアの諸都市からの報告を加え、三つの歴史的段階における都市文化の実態と文化力を検証することである。シンポジウムを通じて、海外の影響が都市に取り込まれるなかで19世紀までに統一的な政治権力のもとで都市を中心とした固有の民族文化が創り出され、またアジア海域の伝統的な都市文化がグローバル化の時代の海域アジア諸都市に色濃く受け継がれたことが明瞭になったと考える。
                        (井上 徹) 


大阪市立大学文学研究科叢書
第1巻 橋爪紳也責任編集・アジア都市文化学の可能性

第2巻 都市の異文化交流

第3巻 井上徹 塚田孝編・東アジア近世都市における社会的結合


第4巻 近代大阪と都市文化

第5巻 都市文化理論の構築に向けて

第6巻 文化遺産と都市文化政策

第8巻 塚田 孝・佐賀 朝・八木 滋編 近世身分社会の比較史


第9巻 井上 徹・仁木 宏・松浦恆雄編 東アジアの都市構造と集団性

第10巻 大場茂明・大黒俊二・草生久嗣編 文化接触のコンテクストとコンフリクト

第11巻 佐金 武・佐伯大輔・高梨友宏編 ユーモア解体新書

第12巻 塚田 孝・佐賀 朝・渡辺健哉・上野雅由樹編 周縁的社会集団と近代


※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。