ユーモア解体新書
笑いをめぐる人間学の試み
佐金 武・佐伯大輔・高梨友宏 編
大阪市立大学文学研究科叢書第11巻


本書は、「人はなぜ笑うのか?」という古くて新しい問いをめぐる11の論考から構成される。古代ギリシャ哲学から現代のポップカルチャーまで、広く具体的な文脈においてユーモアと笑いを多角的かつ多層的に捉え直し、「人間とは何か」というさらに高次の問題に光を投じる。ユーモア研究の先に、新たな人間学の創出を見出す大胆な試み。




■本書の構成

  
イントロダクション:笑いの解体学は新たな人間学である

第1部 ユーモアと笑い

第1章 笑いを研究して何が得られるか…………仲原 孝
  1.序論 2.笑いの多義性 3.笑いの各自性 4.笑いと言語 5.結語

第2章 笑いとユーモアの探究はどんな眺望をひらくのか 
探索ガイドマップ ……片岡宏仁
  1.導入:ヒトはなぜ笑うのだろう? 2.笑いの普遍性・生得性 3.笑いと情動:デュシャンヌの笑いと非デュシャンヌの笑い 4.笑いの社会性 5.ユーモアとおかしみの情動 6. 結び:ひとつの問いのさまざまな変奏


第2部 ユーモアの愉快さ

第3章 ユーモアの価値はどのように割り引かれるのか 
笑いの共有 …………小原漱斗・佐伯大輔
  1.はじめに 2.行動分析学の考え方 3.行動分析学におけるユーモアの捉え方 4.精神物理学における主観量の測定 5.価値割引による主観的価値の測定 6.社会割引とユーモア刺激の共有 7.実験1:仮想場面での測定 8.実験2:現実場面での測定 9.考察

第4章 ユーモアはなぜ愉快なのか 
優越説の逆襲 …………佐金 武・高野保男・大畑浩志
  1.はじめに 2.ユーモア理論とその類型 3.ユーモアと愉快さの甘い関係 4.ユーモアの愉快さは感情か 5.ユーモアの感情理論としての優越説 6.おわりに

第5章 ユーモアは不道徳だとつまらなくなってしまうのか 
面白さの存在論と倫理学 …………太田紘史
  1.問題 2.三つの見解 3.主体相対的な多元論 4.面白さの規範性 5.結語


第3部 ユーモアと集団

第6章 自己卑下による笑いは損なのか得なのか 
ユーモアの効用 …………新居佳子
  1.日常的な自己卑下による「笑かし」と、その研究 2.自己卑下提示と集団主義社会 3.大阪人の特徴? 4.結論

第7章 ヒトはなぜおかしいものを笑うように進化したのか 
「笑い」の源泉とその適応的意味 …………山 祐嗣
  1.社会的哺乳類のジレンマ 2.ダンバー数を超えて 3.笑いの源泉 4.「笑い」の社会的機能:集団の維持 5.順位制の中の嘲笑 6.「笑い」あるいはそれに関係する行動の分類


第4部 ユーモアの創作

第8章 音楽のユーモアはどのように鑑賞されるのか 
レッド・ツェッペリンの《デジャ・メイク・ハー》から考える …………源河 亨
  1.はじめに 2.《デジャ・メイクハー》 3.ユーモアと情動のばらつき 4.鑑賞と知覚的カテゴリー 5.知覚的カテゴリーとユーモア 6.結論

第9章 パロディは笑えるのか 
二次創作との非/連続性をめぐって …………石川 優
  1.はじめに:マンガにおけるパロディをめぐる問い 2.パロディとは何か:理論と歴史 3.パロディマンガのテクスト分析 4.二次創作のテクスト分析 5.おわりに:パロディと二次創作の非/連続性


第5部 ユーモアの歴史学

第10章 なぜアリストテレスは「下ネタ」を許容したのか 
『政治学』の教育論におけるアイスクロロギアについて ………… 田中一孝
  1.はじめに 2.「恥ずべき語り」の追放と例外 3.宗教的儀礼、イアンボス、喜劇における性 4.最善の国制における性の統制 5.おわりに

第11章 20世紀転換期のアメリカ帝国主義において諷刺はどのように利用されたか 
心象風景としての共有知 …………金澤宏明
  1.20世紀転換期のアメリカのユーモア 2.諷刺の捉え方 3.アメリカ諷刺画における外交政策の視点 4.20世紀転換期のアメリカ帝国主義像 5.おわりに

  
エピローグ:おあとはよろしいでしょうか?…………佐金 武・佐伯大輔・高梨友宏




ISBN978-4-7924-1478-8 C3310 (2020.9) A5判 上製本 290頁 本体7,500円
 
     人はなぜ笑うのか:ユーモアから読み解く人間学


 本書を貫くテーマはただ一つ、「人(ヒト)はなぜ笑うのか」という古くて新しい問いである。しかしながら、少し立ち止まって考えてみると、この問いそれ自体が実は厄介な謎であることが分かる。――そこで問われているのは一体何なのか。おもしろいものを見ると、われわれは笑わずにはいられないし、こうした笑いをいつも求めてしまう。それはどうしてかが問われているのだろうか。あるいは、この人間社会にユーモアや笑いが存在する理由や、われわれがそれらを獲得した進化論上の説明が求められているのだろうか。はたまた、笑いとはそもそも何であるか(笑いの本質)が問題とされているのだろうか。このように、笑いに関する先の問いは一見単純に見えて、驚くほど多面的で複雑な諸問題をうちに含んでいる。
 真にオリジナルな探究のはじまりがいつもそうであるように、何を問うかが第一の問題である。ここに収録された論考はいずれも、独自の明確な問題設定にもとづき、ユーモアと笑いという観点から人間本性の重要な一面を明らかにすることを試みている。「人はなぜ笑うのか」という問いが内包する、あまりにも素朴でどう扱うべきか分からないような諸問題を様々な切り口で検討し、古代ギリシャ哲学から現代のポップカルチャーに及ぶ、広く具体的な文脈のなかで捉え直す――。そうすることで、「人間とは何か」というさらに高次の問題にも光を投じる、何か重要な視点を得ることができるのではないか、われわれはそう考えている。あえて大見得を切るならば、ユーモア研究の先に本書が見通す最終目標は、新たな人間学の創出である。

 心理学をはじめ諸科学の発展とともに近年、ユーモアと笑いに関する新たな事実が明らかにされつつある。他方、そうした事実がより多く積み上がるほど、それらについてどう考えるべきかという課題も増える。この場面では、個別の専門的研究だけでは歯が立たない。実際、古代よりわれわれ人類は、人が笑うという事実をどう説明するかに頭を悩ませてきたのである。お笑いの世界では、何が面白いのかを説明することは愚の骨頂であり、もっとも野暮なこととされる。(笑いは説明されると面白くないのである。)本書はこのタブーを徹底的に犯す、恥知らずな試みだ。しかしそこにはきっと、人間を知るための重要な手がかりが隠されている。繰り返そう。笑いの解体学は人間学である



大阪市立大学文学研究科叢書
第1巻 橋爪紳也責任編集・アジア都市文化学の可能性

第2巻 都市の異文化交流

第3巻 井上徹 塚田孝編・東アジア近世都市における社会的結合


第4巻 近代大阪と都市文化

第5巻 都市文化理論の構築に向けて

第6巻 文化遺産と都市文化政策

第7巻 都市の歴史的形成と文化創造力

第8巻 塚田 孝・佐賀 朝・八木 滋編 近世身分社会の比較史

第9巻 井上 徹・仁木 宏・松浦恆雄編 東アジアの都市構造と集団性

第10巻 大場茂明・大黒俊二・草生久嗣編 文化接触のコンテクストとコンフリクト

 
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。