尾張藩社会の総合研究 《第六篇》
岸野俊彦編


「尾張藩社会の文化・宗教と政治」・「尾張藩社会の領主と地域政治」・「尾張藩社会と幕藩社会」の三部構成。『新修名古屋市史』『愛知県史』の史料調査の成果を盛り込み、新たな展開をみせるシリーズ第6冊目。巻末にシリーズ通巻目次を配した。


■本書の構成


序 章 六篇編纂の意義と課題…………岸野俊彦
(名古屋芸術大学)
  はじめに
  第一節 五篇から六篇への「尾張藩社会」研究の進展
  第二節 本書収録論文の構成と意義
  おわりに


  第一部 尾張藩社会の文化・宗教と政治

第一章 尾張藩代替り能興行の政治と社会…………岸野俊彦
  はじめに
  第一節 尾張藩の能興行と、寺社等の勧進能
  第二節 賄方から見た代替り能の実態
  第三節 村役人、村方寺社の御能拝見
  おわりに 


第二章 名古屋東照宮祭礼における町人及び藩主の対応…………清水禎子
(愛知県史編さん室)
  はじめに
  第一節 名古屋町人と祭礼
  第二節 名古屋商人の接待
  第三節 尾張藩主と側近の拝観
  第四節 明治維新後の東照宮祭礼
  おわりに


第三章 『御在国中御茶之湯附』から見る徳川斉荘の茶の湯…………水野荘平
(愛知学院大学)
  はじめに
  第一節 『御在国中御茶之湯附』について
  第二節 『御在国中御茶之湯附』から見る斉荘の茶の湯の特色
  おわりに 


第四章 津島御師・手代の廻檀活動…………石田泰弘
(愛西市教育委員会)
  はじめに
  第一節 津島社の社家組織と御師・手代
  第二節 津島御師の廻檀活動――氷室作太夫家を事例に――
  第三節 手代の廻檀活動
  おわりに


  第二部 尾張藩社会の領主と地域政治

第五章 尾張藩の初期藩政改革
〈正保二年四ツ概と天和元年の財政改革を中心に〉…………杉本精宏(愛知県史委員)
  はじめに
  第一節 初期の藩政改革
  第二節 四 ツ 概
  第三節 三 役 銀
  第四節 寛文・延宝期の災害と藩財政
  第五節 天和元年の藩政改革
  おわりに


第六章 川伊藤家の尾張藩士への貸付について…………種田祐司
(秀吉清正記念館)
  はじめに
  第一節 借金の理由・金利・期限・引当
  第二節 家中貸の型
  第三節 取 扱 人
  第四節 個別藩士の借金事情
  おわりに


第七章 尾張藩における一季居奉公人と寄子宿…………小川晃太郎
(益田清風高校)
  はじめに
  第一節 尾張藩における武家奉公人身分
  第二節 一季居奉公人の「引き込み」と寄子宿の禁止
  第三節 出替り注意触の変遷と寄子宿の黙認
  第四節 対外的危機の到来と奉公人肝煎株の公認
  おわりに


第八章 幕末期における地域指導層と村・地域
〈春日井郡児玉村大矢作左衛門の場合〉…………小川一朗(一宮市文化財保護審議会)
  はじめに
  第一節 村・地域における地域指導層のあり方
  第二節 地域の諸問題への対応
  おわりに

 
  第三部 尾張藩社会と幕藩社会

第九章 将軍養女をめぐる尾張徳川家と幕藩関係
〈喜知姫・松姫を事例に〉…………白根孝胤(中京大学)
  はじめに
  第一節 将軍綱吉の御成と喜知姫
  第二節 将軍養女松姫の大奥入りと尾張家
  おわりに


第十章 尾張西部地域の豪農大橋家にみる新田開発について
〈毛利家預所の検地高入れを中心に〉…………鈴木重喜(正眼短期大学)
  はじめに
  第一節 大橋源三右衛門家と尾張徳川家・出雲松江松平家・出羽山形堀田家
  第二節 尾張藩家臣毛利家
  第三節 大橋源三右衛門家による新田開発
  第四節 大橋太カ右衛門らによる新田検地願と毛利家預所の高入れ
  おわりに


第十一章 東海道における尾張藩の通行と七里飛脚
〈二川宿を事例に〉…………宮川充史(尾西歴史民俗資料館)
  はじめに
  第一節 二川宿と尾張藩主
  第二節 尾張藩の通行と旅籠代
  第三節 二川宿七里役所
  おわりに


第十二章 尾張藩市ヶ谷屋敷と出入百姓
〈武蔵国豊島郡戸塚村中村甚右衛門家の不浄掃除請負を事例として〉…………松田憲治(名古屋芸術大学)
  はじめに
  第一節 中村甚右衛門家の尾張藩出入と市ヶ谷屋敷不浄掃除請負
  第二節 不浄掃除請負の構造――甚右衛門と下請の者たち――
  第三節 甚右衛門の不浄掃除経営の展開
  おわりに 


第十三章 山城国八幡正法寺をめぐる争論と尾張藩
〈八代藩主宗勝相続期における対応から〉…………坪内淳仁(源氏物語ミュージアム)
  はじめに
  第一節 正法寺支配をめぐる社務家と正法寺
  第二節 正法寺の直触願と尾張藩
  第三節 出入和談交渉と尾張藩
  おわりに


第十四章 石清水八幡宮領における門前町の自治と尾張藩家老志水家…………竹中友里代
(京都府立大学)
  はじめに
  第一節  地下神人志水家の成長
  第二節  石清水領における志水家の検断権
  第三節  石清水門前各町の会所
  第四節  正法寺門前志水町の構造と会所
  第五節  志水町惣会所地蔵堂
  第六節  西之堂衆の身分と経済活動
  おわりに





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岸野俊彦編・『膝栗毛』文芸と尾張藩社会



ISBN978-4-7924-1045-2 C3021 (2015.9) A5判 上製本 494頁 本体11,500円

  新たな道へ


金沢大学元教授  中野節子

 
 二〇〇一年に始まった『総合研究』は、第二篇の段階で四篇以上のシリーズを意図したと言われるが、この短期間に同じ藩を扱って六冊のしかも大部な研究書を刊行し続けたことは、研究者の多さと年齢的な層の厚さ、エネルギーの大きさを物語っている。

 本シリーズが『新修名古屋市史』や『愛知県史』とそれぞれの資料編、それらの編集・刊行を契機に発見・注目された史料に基づいて、新たな見解を紹介してきたことは周知のことであるが、本篇でも発見・紹介された史料を大切に忠実に扱っていることが伝わってくる。川伊藤家の尾張藩士への貸付について論じた第六章は、『市史』・『県史』にも活用された一級の名古屋商家文書をさらに丹念に扱った結果であるし、東海道の尾張藩通行を論じた第十一章では、三河国の幕領二川宿の大部な史料を、沢山の表と共に丁寧に紹介している。

 本書もこのシリーズに共通のことながら、近世研究で注目される武家奉公人身分を扱うもの(第七章)から、初期藩政改革のような伝統的なテーマ(第五章)まで様々な観点から尾張藩を追及している。全部で十四の論文を「尾張藩社会の文化・宗教と政治」・「尾張藩社会の領主と地域政治」・「尾張藩社会と幕藩社会」の三部にまとめた手法も卓越しているし、本書を読むと尾張藩の何であるかが把握できるようになっている。近世後期における江戸周辺農民の名古屋藩市ヶ谷屋敷不浄掃除請負については(第十二章)、古くから江戸社会の問題として先行研究が幾本かあるようだが、尾張藩社会の中で位置づけることで異なった意味付けが見出される。

 筆者が所属している研究会の加賀藩研究ネットワークは尾張藩社会研究会と二〇一一年から研究交流を続けている。昨年の四回目からは紀州藩からの発表が加わり、今年は水戸藩からの参加者も期待できると聞いている。いずれも本シリーズの編集者岸野俊彦氏以下、尾張藩社会研究会の積極的働きかけにより可能となったものである。加賀藩は江戸城内では御三家と同じ大廊下詰めで、幕藩社会では御三家に準ずる家格である。岸野氏らの展望は明らかで、まずは「藩」の、この括りで近世社会研究に切り込んで行くのであろう。本篇第九章では、尾張家三代綱誠の息女が将軍養女となり加賀藩主に輿入れしたことの事情と意義を語り、すでにその展望に関わってきている。今後の尾張藩社会研究は、そのエネルギーでそれらの藩との関係を探りつつ、新たな道へ歩み始めるに違いない。


※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。