日本語論の構築
糸井通浩著


時枝誠記の言語理論を学びながら日本語の表現機構に潜む発想や仕組みを明らかにする。




■本書の構成

〔一〕 私の日本語論
  一 日本語の哲学
  二 「こと」認識と「もの」認識 
──古代文学における、その史的展開──
  三 古代文学と「さま」認識の発達
  四 基本認識語彙と文体 
──平安和文系作品を中心にして──
  五 「体用」論と「相」 
──連歌学における──
  六 場面依存と文法形式 
──日本語における──
  七 文末表現の問題

〔二〕 日本語の諸問題──語彙・文法・文章
  一 日本語にみる自然観
  二 語彙・語法にみる時空認識
  三 過程(様態・対象)と結果 
──個別研究を包括する研究、の一つの試み──
  四 日本語助詞の体系
  五 『手爾葉大概抄・手爾葉大概抄之抄』を読む 
──その構文論的意識について──
  六 文章・談話研究の歴史と展望

〔三〕 日本語のリズムと〈うた〉──音数律論
  一 和歌形式生成の論理
  二 「五三七」リズムと三輪歌謡圏
  三 音数律論のために 
──和歌リズムの諸問題──
  四 日本語のリズムと〈うた〉のリズム 
──「四拍子論」を見直す──
  五 日本語のリズム
  六 「日本語のリズム」に関する課題

〔四〕 日本語論に関する書評
  鈴木 泰著『古代日本語時間表現の形態論的研究』
  藤井貞和著『日本語と時間──〈時の文法〉をたどる』
  根来 司著『時枝誠記研究 言語過程説』
  山口佳紀著『古代日本文体史論考』

  ◎主要用語(人名含む)索引




  ◎糸井通浩(いとい みちひろ)……1938年生、京都府出身。京都教育大学・龍谷大学名誉教授。主な共編著に『王朝物語のしぐさとことば』『京都地名語源辞典』など多数



 著者の関連書籍
 糸井通浩・神尾暢子編 王朝物語のしぐさとことば

 曽田文雄・糸井通浩編 私家集総索引




 ISBN978-4-7924-1439-9 C3081   (2017.7)   A5判  上製本  516頁  本体12,000円

  
刊行にあたって――私のスタンス

 本書の「あとがき」で私はこう書いている。


  若い頃、高校で国語の教員をしていたが、「国語」は言語の教育だというスタンスで、「ことば」の働き(あるいは、力)を学び育てることを重視した。自ずと「文学は言語である」と捉える時枝誠記の言語理論や研究に大きな影響を受け、時枝にのめり込んだが、そのスタンスは研究者になっても継続したと言える。


 本書を一言で言うなら、時枝誠記の言語理論を学びながら日本語の表現機構に潜む発想や仕組みを明らかにすることを目指したものということになる。〔一〕章、なかでも一、六、七の各節は、時枝が「言語成立の外的条件」として指摘する「主体、場面、素材」の三要素の関係を私なりに理解し、「主体」との関係において日常の日本語の言語現象の在り方を探究している。〔一〕章五節及び〔二〕章五節は、時枝の文法理論である「詞辞論」について時枝自ら「時枝文法は時枝文法にあらず」と言わしめた日本の伝統的な言語観が窺える連歌論や和歌の「ことば」論の文献について分析を試みたものである。

 〔三〕章では、時枝の「国語美論」(『国語学原論』)にみる理論を日本語の〈うた〉の音数律美の解明の支柱としたと言える。自ずと世に流布する「四拍子論」を真っ向から批判することになった。日常語のリズムの原理と非日常語の〈うた〉のリズムの原理を峻別すべきことを説いている。

 本書の四校を終えた頃、長谷川三千子『日本語の哲学へ』(ちくま新書・2010・9刊)の存在を知って、その書名に大きなショックを受けた。本書の〔一〕章一節のタイトルを「日本語の哲学」としているからである。私がこのタイトルを使ったのはいつだったか、慌てて調べてみた。2010年3月のミニ講演のとき、あれこれ考えた末のタイトルであった。さっそく長谷川氏の本を拝読して感銘を受けた。しかし、私と長谷川氏とでは、「日本語」と「哲学」との関係の捉え方にスタンスのズレがある。長谷川氏のを「日本語をもって思索する哲学」というなら、私のは「日本語を思索する哲学」である。時枝の言語理論を日本語について実践した日本語論と言えようか。 
(糸井通浩)
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。