古代の人物 全6巻
石上英一  鎌田元一  栄原永遠男  監修
刊行にあたって
  第二次世界大戦が終わってから半世紀以上が過ぎ、時代は二十一世紀に入りました。日本古代史の研究は、終戦とともに、それまでの皇国史観から解放され、その否定と克服をめざして出発しました。その後は、木簡・漆紙文書などの新史料の出現、正倉院文書・荘園絵図・金石文・諸文献史料などの既知の史料の見直し等によって、めざましく発展してきました。

 戦後におけるこれまでの日本古代史研究は、社会経済史や政治史、文化史その他の分野で多くの成果をあげてきたということができます。しかし、その成果をふまえて、個々の人間をそこに位置付け、生き生きと描き出すことを、かならずしも十分には行ってこなかったのではないでしょうか。戦後の日本古代史研究は、歴史上の個人を描くことが、かならずしも得意ではなかったとも言われています。

 そこで、本シリーズでは、これまでの日本古代史の豊かな研究の蓄積をふまえて、歴史上の個人を積極的に取りあげ、さまざまな個人を通して時代を描き出すことをめざしたいと考えております。

 われわれの意図するところは、個人の生涯をたどり、そこから人生の教訓を得ることにあるのではありません。また、歴史を動かしたと考えているのでもありません。同じ時代に生きた複数の個人を取り上げ、その個人とその時代の政治・経済・文化・思想などとの関わりを明らかにすることを通じて、全体としてその時代を明らかにすることをめざしております。

 したがって、取りあげる人物は、権力の中枢にいた人物だけでなく、それを含めてさまざまな分野で生きた人々を、できるだけ幅広く選ぶように心がけました。

 本シリーズから、個人の人物がどのような時代に生きたのかをくみとっていただくことを望みます。

            石上英一  鎌田元一  栄原永遠男
 




第1巻 日出づる国の誕生   (最新刊)
鎌田元一編
T倭王権の時代●のちに雄略天皇とよばれ倭王武にあたるワカタケルらから倭王権研究の最前線を紹介
U古代国家の形成●治世中に任那四県割譲問題や筑紫君磐井の乱が起こった継体天皇、仏教公伝・伽耶国滅亡などの重要事件のあった欽明天皇、聖徳太子・蘇我馬子らが活躍し、飛鳥時代の最盛期を現出した推古天皇ら、緊張する国際情勢の中における古代国家形成期の論点をさぐる
V律令国家への道●百済救援軍派遣のために筑紫で没した斉明天皇、その子で中臣鎌足とはかって大化の改新政治を主導した天智天皇、壬申の乱に勝利し律令制支配の基礎をつくった天武天皇、その皇后の持統天皇らから、東アジアの動乱と律令制国家への道筋をみる



第2巻 奈良の都   (最新刊)
佐藤 信 編
T天皇家と藤原氏●混乱する政局のなかで国分寺・東大寺を建立するなど仏教国家をめざした聖武天皇ら天皇家と、皇室との関係をふかめ藤原氏繁栄の基礎をきずいた不比等、光明皇后ら藤原氏の人々との関係をあきらかにする
Uくりかえされる政争●藤原氏の陰謀により自害においこまれた長屋王、左大臣に長く任じた橘諸兄、諸兄政権下で重用された玄ム、北九州で乱をおこし敗死した藤原広嗣らから権力あらそいの渦中の人々を描く
V文化と政治●『古事記』を撰録した太安萬侶、民間布教をおこなったため弾圧をうけるも、東大寺の大仏造営に協力し大僧正となった行基、万葉集に歌を残す山上憶良・大伴旅人らの実像に迫る



第3巻 平城京の落日   (既刊)
栄原永遠男編
T皇位継承の動揺●女性で初の皇太子となった称徳(孝徳)天皇、称徳天皇が皇位をつがそうとした道鏡、皇位継承の激変を阻止した和気清麻呂ら、聖武天皇崩御後の皇位動揺の時代の人々を描く
U藤原氏の転生●恵美押勝の名をうけ専権をふるうも、反乱をおこし斬殺された藤原仲麻呂、その兄・豊成、遣唐大使として唐にわたり没した清河、光仁天皇を擁立・即位させた永手・百川ら藤原氏の群像
V仏教と学問●唐より戒律を伝え唐招提寺を創建した鑑真、東大寺建立に尽力した良弁・佐伯今毛人、すぐれた漢詩を残した石上宅嗣らから奈良仏教と学問の世界をみる



第4巻 平安の新京   (既刊)
吉川真司編
T平城京と平安京●長岡・平安遷都と東北蝦夷戦争を推進した桓武天皇と文武の名臣、逆に政変で没落した早良親王・高丘親王。それぞれの生涯から、平安時代の幕開けと動揺をみる
U王権の安定●三十年におよぶ王権の安定と唐風文化の繁栄を、その中心人物といえる嵯峨天皇と仁明天皇、新仏教の開祖となった最澄・空海、そして男女の文人たちの事績から描き出す
V前期摂関政治へ●承和の変を契機として、藤原良房・基経の前期摂関政治が始まるが、むしろ伴善男・藤原高子らの「敗者」を中心にすえて転換期の実像に迫る



第5巻 摂関政治の光と影   (続刊)
石上英一編
T摂関政治形成の光と影●政治の刷新につとめ、その治世は寛平の治とよばれた宇多天皇、延喜の治と称され公家の理想時代とされた醍醐天皇、天暦の治と称された村上天皇らと大宰府に左遷された菅原道真、安和の変で左遷された源高明、承平・天慶の乱の首謀、平将門・藤原純友らから摂関政治成熟期の光と影を描く
U文化と宗教の担い手たち●古今集と土佐日記により国風文化の魁となった紀貫之、和歌詩文両道に秀で倭名抄を編んだ源順、その弟子で仏教文学の頂の一つ三宝絵詞を撰した源為憲、為憲と共に浄土教思想を深め日本往生極楽記を著した慶滋保胤、それぞれに実践と理論で浄土教思想の発展を画した空也と源信、新しい仏教を中国に求めた円珍と「然、和歌により一生を語る斎宮女御徴子女王、怪人陰陽師安倍晴明、彼らを知りたい


第6巻 王朝の変容と武者   (既刊)
元木泰雄編
T道長と王朝の栄華●摂関政治全盛を築き、栄華を極めた道長を中心に、文化を支えた女房たち、道長の昇進をもたらした東三条院藤原詮子、三蹟の一人で道長の理解者であった藤原行成、道長に迎合しなかった藤原実資、三条天皇ら摂関期の人々の実像に迫る
U摂関政治の衰退●摂関政治全盛期を継承しながら失意の内に死去した頼通、摂関を抑えて天皇親政の強化に努めた後三条天皇、院政を創始した白河院を基軸に、彼らを取り巻く人々を通して、衰退してゆく摂関政治と院政の成立をみる
V武士と地方の反乱●摂関時代の源頼光や、武勇に優れた貴族たち、東国に進出した頼信、その子頼義、孫義家と前九年合戦でまみえた安倍一族、そして平氏台頭をもたらした正盛の実像を描く


※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。