■『好色一代女』の面白さ・可笑しさ | |||||
西鶴を楽しむ@ | |||||
谷脇理史著 | |||||
■刊行にあたって 清文堂出版社長の前田博雄氏から「当社は大阪の出版社、西鶴に関する本、それも西鶴の魅力を広く知らせるような本を出したいのだが…」という相談をうけたのは、もはや数年前のことになる。私も西鶴にかかわり続けてすでに四十年、大阪の出版社、それゆえに西鶴を、という前田氏の心意気に感じて、ただちに承諾してしまった。が、生来野暮、さっそうと西鶴を論じて、その魅力を語ることなどできそうにない。どうしたものかと思いつつ、手に取りやすい四六判三百ページくらいで西鶴の一作品をとりあげ、できるだけ分かりやすくその面白さ、その魅力を語ってみようという具体案をまとめ、その最初の試みとして『好色一代女』(以下、『一代女』と略称)をとりあげてみたわけである。 はたして本書が、『一代女』の面白さ、その魅力をどの程度に伝え得ているか、若干おぼつかない感じもあるが、少くとも私のとらえる『一代女』の面白さ、可笑しさを作品に即しつつ具体化し、それを楽しむための方向を打ち出すことはできたのではないかと思っている。もっとも、これまでの『一代女』についての見方からすれば、その面白さはいいとしても、可笑しさなどを強調して書名にまで入れるのは、不真面目・不謹慎という批判を受けることになるかもしれないが…。 従って本書は、あくまでも私の読み方による『一代女』の魅力の提示である。もとより私に見えなかった、読めなかった側面も少くないことであろう。もし本書によって『一代女』に興味を持っていただける読者があるとすれば、是非とも作品全体をあらためて読み、私の見方を検証しつつ、新たな面白さ・可笑しさを感じ取り、西鶴を楽しんでいただければ、と思う。西鶴は、どんな読み方をする読者をも裏切ることなく、必ずや楽しい時間を過ごさせてくれるにちがいない。 なお、本書のあと、『日本永代蔵』(以下、『永代蔵』と略称)と『万の文反古』をとりあげる続刊が予定され、『永代蔵』の方の原稿はほぼ完成している。本書ともども御手にとっていただく事を、心から期待したい。 早稲田大学文学部教授 谷脇理史 西鶴作品のおかしさ、面白さを追求する好評シリーズ A谷脇理史著・経済小説の原点『日本永代蔵』 B谷脇理史著・創作した手紙『万の文反古』 C広嶋進著・大晦日を笑う『世間胸算用』 別巻@谷脇理史著・『日本永代蔵』成立論談義 DE杉本好伸著・日本推理小説の源流『本朝桜陰比事』 別巻A谷脇理史・広嶋進編著 新視点による西鶴への誘い |
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ISBN4-7924-1378-8 (2003.10) 四六判 上製本 300頁 本体2800円 | |||||
■本書の構成 一 はじめに 美女は命を絶つ斧 二 美女一代女の登場 巻一の一をめぐって 三 舞子と大名の妾 風俗紹介と諷刺 四 島原の遊女一代女 巻一の四から巻二の二まで 五 寺の梵妻・女師匠・町人の腰元 巻二の三から巻三の一へ 六 奥女中・歌比丘尼・女髪結 巻三の二から巻三の四へ 七 介添女・御物師・茶の間女・中居 巻四の一から巻四の四まで 八 茶屋女・湯女・扇屋女房・蓮葉女 巻五の一から巻五の四へ 九 暗物女・出女・夜発 巻六の一から巻六の三へ 終章 「心は濁りぬべきや」―― 最後に居直る一代女 |
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面白くて可笑しい一代女 | |||||
京都大学名誉教授 濱田啓介 |
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西鶴のような大古典は、当然二重三重の視点で読取られる。好色一代女は、当時の性風俗の種々相を裏面に及んで抉り出した風俗志でもあるから、各章を「それを知る」ことの面白さで読むことのできるのは勿論である。 しかし、では小説「好色一代女」の文学的な読み方はどうなのかとなると、女性の転落の構図と、老ても転落しても去らぬ性への執着のすさまじさを読むのだという、近代的深刻主義が一方に存在する。一体読者とは、そのような読み方をするものなのか。読者をここから救い出したのが、著者谷脇博士の視点であった。それは著者がかねてより、揶揄と諷刺というキーワードを用いて表明して来られた、近来新鮮な「好色一代女」観である。 揶揄・風刺とは最も知的な文学行為である。西鶴は知的―知識と智恵のかたまりのような作家なのだ。読者は谷脇氏に読み解いてもらって、奥方死去につき、後嗣作りを至上命令とする大名が、至急家系正しい美女四十余人を手当てする事になった滑稽な好色生活を読み、また大名奥向きの悋気講に引っ張り込まれ、彼等への諷刺を知るであろう。高低さまざまのその道の女性たちの手管と、たぶらかされる男性たちの愚かさを笑うであろう。堕落寺院の裏面をのぞき、有名商店のスキャンダルにふれることになるであろう。そして、全く可笑しい艶笑文学のオチに導かれるであろう。そして、やっぱり面白くて可笑しいと思うであろう。 ところで本書は、西鶴の魅力を解説しようという出版であるが、同時に、現代の読者と一諸に、西鶴を読もうという企画でもある。それについて、私の最も推賞する点は、教科書的なつまみ喰いではないという事、好色一代女六巻二十四章を、始から終までのすべてを読ませてくれているという点である。 谷脇博士も、そして私も、現代の人々に西鶴の原文を読んでほしいと思っている。本書の随所に原文が提供されている。一言一事に野暮な注釈をつけられると、注を読むのに立止るから、全体の流れは何だか分らなくなりかねない。本書の原文の読ませ方は上手でスマートである。で結局のせられて「好色一代女」を通読した気になってしまうであろう。それで大変結構ではないか。著者は「あとがき」で、是非原文を通読しなさいと言って居られるのだが。 |
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※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。 |