禅林の文学
詩会とその周辺
朝倉 尚著
禅林の文学(五山文学)の特質についての解明を続ける著者が、それぞれの作品(詩作品)をもたらした契機について検討した、基礎的な研究書。「詩会」を中心に据え、その周辺に眼配りされる。友社の実態、詩会の性格と運営(法式化)、詩会での具体的な詠作例、さらには試筆詩・送行詩・招寄詩などをめぐる唱和の世界、和歌と漢詩の唱和に際した韻の問題、代作の実態等の解明は、いずれも著者により初めて着手された本格的な業績である。今後、斯界の研究者にとって、本書は必携の書となるであろう。




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ISBN4-7924-1384-2 (2004.5) A5 判 上製本 590頁 本体16,000円
■本書の構成
第一部 禅林における詩会の諸相
第一章 詩会の実態
第一節 相国寺維那衆強訴事件
第二節 内衆の詩会―相国寺雲頂院の場合
第三節 友社の詩会
第四節 『社会式』(南禅寺金地院所蔵)について―「五山の友社」における詩会の実態
第五節 『建仁社会之法』『社会儀軌』(建仁寺両足院所蔵)について―「一山(建仁寺)の友社」における詩会の実態
第二章 作品の検討
第一節 『惟高詩集』(内閣文庫所蔵)所収景徐周麟関係文明期詩会資料について
第二節 『古宿会詩』(妙心寺雑華院渋谷厚保氏所蔵)について
第三節 『八景詩歌・十二月障子画詩歌・今花集・易然集』(彰考館所蔵)について
附 翻刻篇
第二部 詩会の周辺
第一章 唱和の世界
第一節 試筆詩と試筆唱和詩
第二節 送行詩と招寄詩
第三節 和歌・漢詩唱和の際における韻の問題
第四節 景徐「禁裏御夢想記」寸見―永正七年八月十一日禁裏御夢想歌と肖柏をめぐって
第二章 代作の世界
第一節 代作の実態
第二節 「混入」考―「横川景三集」の場合
資料編 『古宿会詩』(妙心寺雑華院渋谷厚保氏所蔵)
索 引

  刊行のことば
朝倉 尚
本書のねらい―禅林の文学(五山文学)・作品成立の契機
 禅宗の宗旨を極めることを目的・目標とした禅僧の中でも、いわゆる「五山派」に属する禅僧の製した漢詩文を、従来「五山文学」と呼称してまいりました。が、五山派に属する僧の文学と、属さない僧の文学との間に、本質的な差異を指摘することは困難であります。筆者としましては、ともすれば臨済宗・五山派に属した禅僧の漢詩文に偏り勝ちではありましたが、これに属さない禅僧のそれらをも研究の対象にしてまいりました。その結果、大半の実体は「五山文学」ではありますが、この術語を使用することは極力避け、広い意味での禅僧の文学を指す、「禅林の文学」の呼称を用いるように心掛けてきました。
 筆者の「禅林の文学」研究の目標の一つは、禅林の文学が中世国文学の中でいかなる位置を占めることができるかを確認することでありまして、そのことはすなわち、禅林の文学の内容面と表現面とにおける特質が一体何であったのかを解明することであると信じてまいりました。この面での成果を、論文集の公刊という形で初めて世に問いましたのが、『禅林の文学―中国文学受容の様相―』(清文堂出版、昭60)でありました。
 一方、文学作品の特質を解明するためには、同時にそれらをもたらしたそもそもの背景や経緯(「契機」と総称)を各方面から検討する必要性をも痛感いたし、具体的な作業に従事してまいりました。禅林の文学の特質解明を達成するためには、基礎的な作業とも言えましょう。本書の公刊は、その成果の一部を世にお問いし、ご批判を仰ぐものであります。
対象とした時期―爛熟・衰退期
 禅林の文学をもたらした契機を検討するにあたりましては、本朝に禅宗文化・文芸が渡来した当初より時代を逐い、順次明らめるのが理想的であることは言うを俟ちません。が、渡来の当初より禅林の文学が存在し、今に伝来していることも事実でありますが、作品自体に逐一明記なり、注記なりが存する訳ではありません。作品が成立した契機が示される資料の質と量とにおいては、時期によって明らかに偏りを認めざるを得ません。禅林の文学(詩作品)をもたらした契機を解明するのに資する資料を比較的豊富に認め得るのは、現状では室町時代後期から安土桃山時代にかけてであります。先人もご指摘のごとく、禅林の文学の「爛熟・衰退期」に相当いたします。爛熟から衰退に向かいます時期だけに、文学・作品の内容面はそれとして、形式面(「契機」)におきましては、前代からの蓄積が整理・踏襲されまして、一つの到達点が示されております。前代までの様相をも十分に窺い知ることが可能であり、興味深いのであります。
対象とした範囲―詩会とその周辺
 「禅林の文学」とは言いながら、本書が対象としたのは、もっぱら「詩」作品であります。そして、詩作品をもたらした諸契機の実態を解明するに当たりましては、「詩会」を中核に据えた上で、その周辺に位置した契機について考察いたしております。その具体的な内容につきましては、「目次」を御参照の上で、ぜひともに本書の本文をお読みいただきたく思います。
 平成十六年四月