■日本海域歴史大系 全5巻 | |||||
小林昌二 監修 | |||||
多彩な切り口から織りなす日本海域論 | |||||
『日本海域歴史大系』1〜5 巻がほどなく逐次に刊行されようとしています。企画の当初から携わったものとして、その目的や特色について読者各位にお伝えし、ここに御挨拶を申し上げたいと存じます。 かつての国史から日本史に脱却しようと戦後歴史学は、東アジア史への視野を広げながら複合的な諸民族文化を含み込む列島史へと歴史像を追求し、二十世紀末までには列島各地域の個性や自立の課題をも追求するものでした。しかしなお領域国家日本の形成を自明とするところから始まり、奈良・京都・鎌倉・江戸・東京と太平洋ベルト地帯が軸となる地域を中心にした史的発展の枠組みが容易に変わらないままに推移してきたことも否定できません。 列島史では必ずしも陽の当たらない周辺地域の北方史・東北史・沖縄南島史などが従来の歴史像の歪みを是正する独自な個性や自立性の特色を示す成果をあげています。同様に列島の中心地帯では「裏日本」などと称される歪んだ日本海域の近・現代史を克服するために、この地域が対岸諸民族や北方蝦夷と長く豊かな交流、交易などの地域主体となって、政治的にも、文化的にも、また経済や社会、宗教、自然や環境の面においても、特色と個性を育んできた近代以前の歴史的事象が、次々と明らかにされてきています。 二十一世紀初頭は、地球的な危機への人類的連帯、諸民族との相互理解、地域社会の自立などの課題に直面することにより、国民国家の壁を低くして考える歴史像が求められていると見られます。 今企画ではこうした動向をふまえ、日本海域のさまざまな歴史的事象について、古代2 巻、中世1巻、近世2 巻からなる前近代の文献史学と歴史考古学による、八十余名の執筆陣からの論考とコラムとをもって、列島の新たな歴史像構成に挑戦し、歪んだ歴史像の克服につながることを期しています。 |
|||||
新潟大学大学院現代社会文化研究科教授 小林昌二
|
|||||
●第1巻 古代篇1● 小林昌二・小嶋芳孝 編 列島の日本海を取り巻くツクシ、イズモ、タニハ、コシ、エミシなどの地域こそ、それぞれの古代文化形成の中心地であった。第1巻は、東アジア随一の「内海」をめぐって対岸諸民族とも豊かな交流を繰り広げ、高度な文化と強大な王権の確立に関わった環日本海文化圏の形成のありさまと各地域の交流を、文献史学・考古学それぞれの立場から探る。 ISBN4-7924-0581-5 ●第2巻 古代篇2● 熊田亮介・坂井秀弥 編 古代の日本海地域は、各地に独自の文化が形成されていた。ツクシ、イズモ、タニハ、コシ、エミシなどの各政治圏に見られる地域的特色、さらに生産・流通のダイナミズムを文献史学・考古学双方の立場から明らかにしていく。 ISBN4-7924-0582-3 ●第3巻 中世篇● 矢田俊文・工藤清泰 編 さまざまな勢力が自立し、しのぎを削った中世。しかし、それは同時に日本海を舞台とした多様な国際交流の時代でもあった。自然・環境にも注目しながら、日本海域の中世的世界に、文献史学と考古学が新たな光を当てていく。 ISBN4-7924-0583-1 ●第4巻 近世篇1● 長谷川成一・千田嘉博 編 中国・オランダを例外として国を鎖していたとされる近世。しかし日本海域に目を向けると、アイヌを介した北方との交易、北前船を通じた内外の交流の海として、新たな地域史像が浮かび上がってくる。本巻では、異国との接触を始めとして、海域の城郭・鉱山、海運と港町の発展、災害や信仰から見た地域社会、赤瓦や擂鉢等の移動など、多様な社会相を明らかにしていく。 ISBN4-7924-0584-X ●第5巻 近世篇2● 原 直史・大橋康二 編 近世後期、日本海側の地域社会の特徴について、近世考古学・文献史学があらたな考察を試みる。朝鮮や北方との交易など環日本海における技術伝播や流通は、地域社会の生産や生活にいかなる影響を与えたのか。さらに、地主地帯が多い日本海側の社会構造や教育文化の特色について、厳しい自然風土や北前船によってリードされた活発な商品流通とのかかわりから検討する。 ISBN4-7924-0585-8 いずれもA5判上製・カバー装 各巻本体3,800円 ISBN4-7924-0586-6 C1321 (セット本体19,000円) |
|||||
※所属・肩書き等は、本書刊行時のものです。 |